忙しくても1分で名著に出会える『1分書評』をお届けします。
今日は尾崎世界観さん。
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別れたくないって言って子供みたいにめちゃくちゃに泣いて、わかったわかったよと言われて、ほらもうすぐピザも来るからね、泣き止みなよって言われて、後から考えたら頼んだピザが来るまでの30分足らずの間に随分壮大な喧嘩して仲直りしたんだなとか、家に帰ったらギターが部屋の前に出されてたり、新宿の東南口で言い合いになって、改札を通って帰って行く瞬間に掴んだ手の感触とか、寝て起きたら大丈夫だろうと思って寝たら二日酔いの様にまだ引きずっていた憎しみの感情とか、誰かと本気で向き合うというのはそういう事の連続で、大変だ。
この前、久しぶりに送られて来た段ボールの伝票の差出人の名字が変わっていて、それだけで全てを許せるし、許して貰えた気がした。どれだけぶつかっても触れなかった彼女の大事な所に触れた気がした。どこの誰かも知らない他人の漢字二文字で全てを肯定出来た。
窪さんの作品を読んでいると安心する。人を疑っても良いんだなと思って。信じるという事は疑う事だと思うから。繋いだ手の中の冷たい部分を探してしまうのは昔からの癖だ。子供の頃、ボロボロのタオルケットの端の冷たくなった部分を触っていないと安心して眠れなかった名残なのかもしれない。
苦労して積み重ねた信頼関係にも、こっそり切り取り線を入れていつでも切り離せる様にしている。
ピザが来るまでの30分足らずの間に、あんな大喧嘩して泣いてた俺が、1分でこんな素晴らしい小説の書評出来るまでになったよ。
結婚おめでとう。