『文春砲 スクープはいかにして生まれるのか?』(週刊文春編集部 著/角川新書)

「週刊文春」取材の裏側を、解説と再現ドキュメントで公開する『文春砲 スクープはいかにして生まれるのか?』(角川新書)が刊行されました。発売を記念し、「Scoop1 “スキャンダル処女”ベッキー禁断愛の場合」の章を公開します。“文春砲”という言葉が広く知られるきっかけとなり、第23回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム大賞」を受賞したスクープ。その舞台裏にあったものとは――。(全4回)

※前回までの記事はこちら→#1#2#3

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ベッキーに直撃!

 午後九時、長崎ではまさかの事態が起きた。

 ベッキーと川谷が、マンションから連れ立って出てきたのだ。

 川谷はマスクにニット帽。ベッキーもマスクをしているうえにキャスケットを目深に被(かぶ)り、顔全体を隠すようにストールを巻いていた。それだけの警戒をしていたとはいえ、二人で一緒に出てくるのは期待の範囲を超えたことだった。

 川谷は手に缶ビールが二本入ったビニール袋を提げていた。親との対面を済ませて、少し息抜きをしたかったということかもしれない。夜景が見える高台があり、そこに向かって歩きだしたのだ。

 大山とカメラマンは停めていた車から急いで飛び出した。とにかくまずはベッキーに直撃した。

「週刊文春です。川谷さんとのご関係をお聞きしたいんですが、ここは実家ですよね」

直撃にベッキーは絶句 ©文藝春秋

 瞬時にベッキーの顔が引きつった。

 顔を伏せたベッキーは何も答えない。大山から逃れるように踵(きびす)を返し、マンションのほうへと戻りはじめた。

 川谷の傍(そば)を離れてツーショットの写真を撮られないようにしたかったのだろう。取材を振り切るためにはマンションに戻るしかない状況でもあった。

「どういうご関係なんですか?」

「……ごめんなさい」

 ようやく言葉が返ってきた。

「川谷さんが結婚されているのはご存知ですよね?」

「…………」

 また黙ってしまった。あまりにも動揺していたからか、はあはあとベッキーの呼吸は荒くなった。

「交際をされて……」

「ないです。事務所を通してもらえますか」

 そこだけはきっぱりとした口調だった。

 さらに大山は質問を投げかけたが、それにはやはり答えてくれず、ベッキーはふらふらとした足取りでマンションの階段を上がっていった。

嘘をつく川谷

川谷は結婚の事実を否定 ©文藝春秋

 大山が振り返ると、川谷は呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしていた。

 突然、週刊文春と名乗る記者が現れ、どうしていいかわからなかったに違いない。坂本が、川谷をブロックするように立ち、「週刊文春です」とひと言ふた言話しかけながら引き留めていたので、大山も近寄っていった。安心させようと思い、笑顔をつくりながら、できるだけやさしい声で話しかけた。

「週刊文春の大山と申します」

 名刺を渡すと、川谷は受け取った。

「今日、ご実家まで連れて来られたベッキーさんとの関係について伺いたいんです。元日から今朝まで、二人で○△ホテルに泊まられていましたが、どういうご関係ですか?」

「僕からはなんとも……」

 明らかに動揺しており、目が泳いでいた。

「川谷さんはご結婚されてますよね」

「……いえ」

 この回答を聞いたとき、大山はこれだけで記事のインパクトが強くなったことを確信した。はっきりと川谷は嘘をついたのだ。

「A子さんという女性と結婚されてないんですか?」

「はい」

「A子さんをご存知ないですか?」

「……ノーコメントで」

「本当にA子さんを知らないんですか?」

 このことに関して大山はしっかりと念押しをした。すると、さすがに川谷も、知らないとまでは言えなくなった。

「名前は知っています。友達です」

 また嘘をついた。

「クリスマスイブにはベッキーさんと幕張のホテルに泊まりましたよね?」

「はい」

「不倫関係ですか?」

「いや、それはないです」

「男女の関係ではないと?」

「はい」

「どういう存在ですか?」

「ホント、親しい友人です」

 こうしてしばらくは受け答えをした川谷も、「すいません、ちょっと一度、上へ」と言ってエレベーターのほうへと消えていった。