プロ棋士の晴れ舞台とは何だろうか。タイトル戦の番勝負がまず浮かぶが、シリーズを制してタイトルを得た結果として、表彰される舞台がある。
「就位式」と呼ばれるイベントがそれだ。これは棋界用語であり、他の業界ではあまり聞く機会がない言葉だと思うが、要するに表彰式と考えていただければいい。タイトル戦の勝者を祝い、たたえる舞台である。
関西から駆けつけたという棋士の姿まで
今年(2019年)の王位戦で、7度目の挑戦にして悲願の初タイトルを獲得した木村一基王位(46)の王位就位式が、12月6日に千代田区の「日比谷松本楼」で行われた。その模様を紹介したい。
式の開会は正午だが、11時半の時点ですでに多くの人が集まっている。最終的に240名を数えた参加者は、みな木村王位に一言お祝いを言いたかったのだ。競争相手ということもあり、普段の就位式に他の棋士が多く集まる例は珍しいが、この日は右を見ても左を見ても棋士の姿ばかりだった。中には関西から駆けつけたという棋士の姿まであった。
式の流れとしては、まず主催社の代表挨拶から始まるのが一般的だ。この日は中日新聞社東京本社代表の菅沼堅吾氏が壇上に立ち、祝いの言葉を述べた。
続けて日本将棋連盟を代表して、佐藤康光会長が壇上に立つ。「今期の王位戦では第1局の前夜祭にも参加して『ここに王位戦で5回挑戦しながら一度も取れなかった人間がいます。縁起でもないから対局者は近づかない方がいいです』と話しました。まあ、私のことなんですけどね」とユーモアを交えた挨拶をして、会場に笑いが起こる。
受け取る王位がビックリする“重さ”
そのまま佐藤会長から王位就位状の授与が行われ、引き続いて菅沼代表から賞金目録と記念品の贈呈が行われた。記念品は人間国宝の陶芸家・福島善三氏作の「中野月白瓷鉋文壺」(なかのげっぱくじかんなもんつぼ)である。王位就位式の記念品はこのような陶芸品であることが多いが、その重さに、受け取る王位がビックリするというのがここ数年のお約束である。
続いては来賓祝辞。弁護士であり元名古屋高等検察庁検事長の藤田昇三氏が壇上に立った。若手時代の木村王位が指導対局に訪れた時のことを語り、「緩めていただき、勝つことができました」。
そしてようやく、お待ちかねの木村王位による謝辞である。木村王位に限らず、まずは棋戦主催社に御礼をいうのが、謝辞の始まりの通例だ。そして本文へ続く。
「今期、挑戦権を取れたのは望外の幸せでした。いつもリーグ残留が一つの目標だったので。挑戦できるとは思っていませんでした。挑戦権を得てまず考えたのは、相手が充実している豊島さんなので『4連敗しないように』ということです。もう一つは『午後に行われる大盤解説会の時に終わっていない』ことです」
(ここで一同笑い)