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薬剤耐性菌で年間8000人以上が死亡 「薬をもらうために医師にかかる」はなぜ間違いか?

「念のため抗生物質も出しましょう」が実は危ない!

2019/12/11

 抗生物質(抗菌薬)の効かない薬剤耐性(AMR)をもった菌による被害で、日本でも年間8000人以上が命を落としている──そんなショッキングな推計結果を、国立国際医療研究センター病院と国立感染症研究所の研究グループが公表しました。

 12月5日付で同センターが発表したプレスリリースによると、薬剤耐性菌の中でも頻度が高い「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」と「フルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)」による「菌血症(細菌が血液に入り込んで起こる病気)」の全国の死亡数を厚生労働省のデータをもとに推計したところ、2017年のMRSAの死亡数は4224名、FQRECの死亡数は3915名と推計されたそうです。

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“念のため”の処方が耐性菌を生んでいる

 幸いなことにMRSAの死亡数は年々減る傾向にあり、病院での抗生物質の適正使用を推進する対策が一定の成果を上げていると見られています。しかし、FQRECの死亡数は増える傾向にあり、他の薬剤耐性菌による死亡も含めると、年間1万人を軽く超えるのではないかと言われています。

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 なぜ、抗生物質では殺せない細菌が増え、多くの人の命を奪うようになったのでしょうか。それは、必要以上に抗生物質が使われてきたからです。抗生物質を使うと細菌は大量に死にますが、一部にその成分が細胞質内に入るのを防いだり、無毒化したりする能力を獲得した細菌が現れます。抗生物質をめったやたらに使うと、抗生物質に弱い菌は死に絶えますが、強い菌だけが生き残り、耐性菌ばかりが増えてしまうのです。

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 単独の抗生物質に対してだけでなく、複数の抗生物質を試しても効かない「多剤耐性菌」も出現し、院内感染による入院患者の死亡事例が起こるなど問題となってきました。にもかかわらず、なぜ抗生物質の乱用が続いてきたのでしょうか。それは、本来は必要ないにもかかわらず、「念のため」という理由で処方されることが多かったからです。

風邪に抗生物質は効かないが……

 よく言われているのが「風邪」に対してです。かなり知られるようになってきましたが、風邪に抗生物質は効きません。風邪は細菌ではなくウイルスによる感染症なので、抗生物質では治せないのです。しかし、風邪をこじらせて細菌による感染症を起こしては大変と、念のための抗生物質がしばしば処方されてきました。また、新しい抗生物質が出るたびに製薬会社が販売促進をかけるので、医師がそれに乗せられて処方するということもありました。

 さらには、患者側の問題も指摘されています。熱や咳で受診した患者に対して、「医師が抗生物質は不要」と診断したとしても、「抗生物質を処方してほしい」と求める患者が少なくないというのです。念のために処方しようとする医師と、薬の販売量を増やそうとする製薬会社、そして自然に治ることの多い風邪のような病気でも抗生物質を欲しがる患者。これら三者の要因が相まって、抗生物質の乱用が蔓延ってきたのです。