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【ロッテ】ひっそりとオープン戦首位のマリーンズ「あの年とダブって見える」

文春野球コラム ペナントレース2017

2017/03/24
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勝率9割超えで四半世紀ぶりのオープン戦首位

  たかがオープン戦、されどオープン戦。世界の野球ファンの注目がWBC(ワールドベースボールクラシック)に集まっていた中、千葉ロッテマリーンズは静かに、こっそりと2017年のオープン戦首位を確定させた。3月24日現在では12勝1敗3分けと驚異の勝率9割越え(正確には勝率・923)。山室晋也球団社長も3月20日に千葉市内で行われた年間シートオーナー、企業スポンサーを集めたイベントの冒頭で思わず「この貯金をシーズンにまわしたい」とボソッと言っていたが、球団の誰もがそんな気持ちである。

 なにしろ、二ケタ貯金(貯金11)。こんなスタートダッシュをシーズンで行えたらお祭り騒ぎである。残り2試合を残して早くも92年以来のオープン戦首位での終了が確定。実に四半世紀ぶりというからビックリ。ちなみに当時、私は高校1年生。まだ産まれていない選手も多数いる(どうでもいい例えでスイマセン)。

 もちろん、チームはオープン戦の勝利に一喜一憂をしているわけもなく、伊東勤監督が見ているのは戦い方、若い選手たちの戦う姿勢、そして投手陣の調整具合であったりする。石垣島キャンプから指揮官が求めていたのは競争意識。キャンプ前日に行われたミーティングで首脳陣は「野手でレギュラーが決まっているのは(前年、首位打者の)角中と(キャプテンで前年、ベストナインの)鈴木の2人だけ」と強い競争意識をあおった。だから、キャンプでは例年にないぐらいのアピール合戦が繰り広げられた。

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 練習が終了する時間も遅く、いつまでも打ち込む姿が目についた。投手陣も実績のあるメンバーが序盤からブルペンで唸るようなボールを投げれば、若手も負けじとアピール。これに5球団競合の末、入団が決まったルーキーの佐々木千隼投手が入るという強烈な化学反応的な刺激も加わり、他球団も腰を抜かすほどの高いレベルでの競争となっている。先発だけでも涌井、石川、スタンリッジ、唐川、大嶺、佐々木、二木、関谷と、どんどん名前が挙がる超豪華メンバーである(セットアッパー陣も凄いです)。

 そんなことを考えつつ、オープン戦の試合前打撃をニヤニヤしながらケージ裏で見ていると伊東監督に突っ込まれた。「オマエ、オープン戦首位なんて自慢するんじゃないぞ! 気の早いことを考えるなよ。あくまでオープン戦だからな!」。さすがは現役時代にセ・リーグ6球団すべてと日本シリーズで対戦したことのある殿堂入り捕手。私の考えていることなど見透かしている。一瞬、オープン戦首位記念グッズも考えたが、すぐに脳裏からかき消した。「確かにオレもそういえば負けていないなあとは思ったけど、オープン戦何位なんて意識をまったくしていないし、成績はどうでもいい。今、大事なのはギリギリまで競争をしてもらうこと。そして開幕に向けていい形を作ることだよ」。

 キャンプ以来、今年のマリーンズは本当に競争意識が高い。一人が打てば、なにくそとライバル選手が燃える。守備でもファインプレーの連続。走塁も次の塁を狙う貪欲な姿勢に溢れている。ブルペンでは「早く投げたい!」との思いで待機する投手で熱気ムンムン。マウンドに呼ばれれば「さあ、どんな打ち取り方をしてアピールしようか」と腕をぶす状態である。冷静に分析をし直しても、この強さは本物。今年にかける期待値は否応なしに高くなる。

夢見るは本拠地初の胴上げ

「負けて覚えると言う人がいるけど、俺は勝って覚えることも多いと思う。それは勝つ喜びであったりもする。一度、優勝の味を知ると、また勝ちたいと思う。他のチームにこの喜びを奪いとられたくないと思う。そういう気持ちが芽生えるのも大事なんだよ。優勝はいいぞ。オフも充実するしな。だから、選手たちにもその味を知ってもらいたい」

 そう言って指揮官は空を見上げた。ライオンズでの現役時代にリーグ優勝14度、日本一8度を経験した男だからこそ知る勝利の美酒の味。そういえば、昨年、マリーンズが84、85年以来となる2年連続Aクラスになったという記録を私が胸を張って伝えると、白けられた。「オレは嬉しくない。優勝が出来なかったことが悔しいし、申し訳ない」。

 千葉県鴨川市で行われる秋季キャンプではこんなやり取りもあった。練習を見ながら、色々な話を聞いている時、ふと監督の現役時代の話になった。「監督が現役の時はどんな秋季キャンプをされていたのですか?」。この質問に数秒、黙った。そして語気を荒げて言い放たれた。「オレはこの時期、日本シリーズに出ていたことが多かったから、秋季キャンプの記憶なんてない!」。バッサリと斬られた気分だが、まさにその通り。秋季キャンプは優勝を逃したチームが来季に向けて悔しさを胸に練習に励む期間だ。本来ならば、この時期、日本シリーズを戦い、そして優勝の様々な行事で、てんてこ舞いにならないといけない。

2005年の日本一の祝勝会の模様 ©梶原紀章

 3月26日にオープン戦は終了し、長いシーズンが始まる。1試合ごとに一喜一憂していては始まらないし、毎年のように「今年は冷静でありたい」と思うのだが、結果的にジェットコースターに乗っているような気持ちになってしまう。そういえば今年は酉年。前回の酉年は実に貯金35。本拠地で行われた伊東ライオンズとのプレーオフでは2勝0敗で勝ち上がり、そして福岡では王ホークスに3勝2敗で勝ち越し、リーグ優勝(当時はプレーオフ優勝でリーグ優勝)。

 甲子園で行われた日本シリーズでは岡田タイガースを4タテで打ち破り31年ぶりの歓喜に沸いた(日本一のビールかけを経験したことがなかったので10月下旬の寒い時期だったにも関わらず、ビールをキンキンに冷やしてしまい、震えた思い出があります)。あの年と今年はどこかダブって見える。夢みるは、今だに味わったことのない本拠地ZOZOマリンスタジアムでの胴上げ。オープン戦は静かに勝ち続けているが、シーズンでは派手に話題性抜群に勝って、野球界の主役に躍り出てみせる。キャプテンの鈴木大地内野手は言う。「状態をピークに持っていくのは3月31日(開幕戦)ですよ!」。球春到来。まもなくシーズンが開幕する。マリーンズファンにとって例年なくワクワクする春である。

梶原紀章(千葉ロッテマリーンズ広報)

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。

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