障害者バラエティ「バリバラ」が「やっちゃいけない」を突破できた理由

「バリバラ」日比野和雅プロデューサーに聞く #2

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『アメトーーク!』的なひな壇にしたかった

『バリバラ』の前身番組『きらっといきる』では毎回ひとりの障害者に焦点をあて、その人の生活を描いたVTRを作り、それを見ながら、本人と山本シュウと玉木という2人のMCらが話し合うという内容だった。

 だが、この形には大きな欠点があった。

 

「VTRで出てきた課題に対して、スタジオでいつも番組MCの玉木さんが解決法をコメントする。すると、それが模範解答みたいになっちゃうんですよね。『僕はこうやってこういう課題を解決したよ』とか『もっと他にもこういう課題もあったよ』とかというのは、本当はそれぞれ個人の体験なんです。だけど、1人に焦点をあてると、ひとつの答えが象徴的に出ちゃうんですね。

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 そうじゃなくて、いろんなメニューがやっぱり必要で。『バリバラ』では、いろんな人が、同じ恋愛でも『僕はこうだし』『僕はこうだし』と、同じ発達障害でもこんなに違うのかよ、っていうことを見せていくということをしたかった。恋愛なら『だってうちはうまくいってるよ』『うちは同じ状況なのにこんなに違うわ』っていうことが、当たり前のようにある。だから、『アメトーーク!』的にひな壇にしたかったんですよね」

 実際、先日放送された『バリバラ』から生まれたスピンオフ的な特番『ココがズレてる健常者』では、100人の障害者たちがひな壇に座り、健常者の芸人たちの周りを囲んだ。

2016年8月28日、「24時間テレビ」の真裏で生放送した「検証!『障害者×感動』の方程式」 ©NHK

「『きらっといきる』では、最後のほう、出演者探しに苦労しましたけれど、『バリバラ』なら出たいっていう障害者の人たちは多いですね。自分の素の声を発信できる、言いたいことを言えるって。

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『多様性』と言う時に、どれだけ寛容であるかというのがセットで語られるんですけど、もう1つ、『個別性』というのが大切だと思っているんです。われわれが本当に多様な、いろんな人がいるというのは、個別性がそれぞれにあるから。その個別性を認識していかなきゃいけない、理解していくということがどれだけ大切かということを、『バリバラ』でももっと語っていかなきゃいけないんじゃないかなと思っています。

 たとえばトレンディエンジェルがハゲをネタにしても、他の薄毛の人を同じようにイジっちゃいけないっていうのは、もう社会的なコンセンサスはあるんですよ。でも、障害者や性的マイノリティの人たちに対してはまだひとくくりにしてしまいがちなんです。けど実際は、本当に個人個人違いますからね。こんなに違うの? っていうぐらい」

社会の障害者像を崩すことは、テレビ的なこと

『バリバラ』は障害者=マジメというイメージを壊し、面白い障害者像という新たなイメージを作り出した。だが、間違ってはいけないのは、それもまた障害者のある一面でしかないということだ。

 

「本当に個別的な問題なんです。『バリバラ』に出ている大西瞳のように義足を手にとって明るく振り回したりするような人もいる一方で、たとえば、突然の事故で障害者になってしまった中途障害の人たちの中には、なかなか障害を受け入れられない人もいるわけです。足を切断してしまった。もう生きている意味を見いだせないと苦しむ人たちがいる。そういう障害受容ができない人のためには、『ハートネットTV』のような番組があるとは思うんだけど、『バリバラ』の役割としても、次のステップを考えなければならない時期に来ているのかもしれない。ひとつの像は提示できたけど、まだ一方の課題は残っていますね」

バリバラ恒例「SHOW-1グランプリ」の第3回と第6回の王者・万次郎 ©NHK

 障害者も健常者も性的マイノリティも在日外国人も抱える問題はそれぞれ違い、その答えも様々だ。なにが正解かはわからないし、正解があるのかどうかさえ分からない。

『バリバラ』はそんな答えのない問いを発し続けている。そしてその裏にはテレビマンとしての矜持が見え隠れしている。

「テレビマンとして、テレビのこれまでのやり方じゃ面白くないんじゃないかっていう思いがあったんです。生身の人間を扱っているドキュメンタリーをやろうとしたら、起承転結のあるものってリアリティーがない。こちらの想定内のものを提示したって誰も見てくれないし、自分たちもワクワクしない。どれぐらいいい意味で裏切れるか、壊せるか、というところは、やっぱりみんなどうにかしてやろうと思っていて。それは『バリバラ』ではある意味やりやすい。なぜなら、これまで福祉のがんじがらめの作りが、あまりにも大きすぎたので、そこはやっぱり突き崩しがいがある。そして、特にそれがメディアのこともそうだし、社会全体がやっぱりそういう障害者像というのを持ち続けているわけだから、それをいかに崩していくかということは、とりもなおさずテレビ的なこと。これまでのイメージを覆していく、そしてそこに新しい価値を見出して、新しいものを生み出したりしていくということだと思うんですよね」

 

ひびの・かずまさ/1964年、京都府出身。1990年にNHK入局。現在、NHKプラネット近畿総支社番組制作センター統括部長。『バリバラ』制作者として放送文化基金賞、日本賞ノミネート、ギャラクシー賞奨励賞を受賞しており、今も『バリバラ』の制作に関わっている。

写真=石川啓次/文藝春秋