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『逃げ恥』脚本家が小学生時代に書いた『スシヤーです物語』

“テレビっ子”野木亜紀子が語るテレビのこと #1

「田植え」授業がドラマで役立った

――それで日本映画学校に行って、周りは文化度の高い人が多かったんじゃないですか?

野木 高かった! 本っ当に高くて、「ヤバい!」しかなかったです。何言っているか分からないんです。もう、何語?っていう感じですよ(笑)。レンタルビデオ店のオタクとはレベルが違う、本気の映画オタクの集まりで。皆さん、基本年上なんですよね。当時の映画学校って新卒が3分の1ぐらいで、大学1回入ってからどうしても映画がやりたくて戻ってきたりとか、社会人を辞めて入ってきた人とか、平均年齢が30歳近い映画オタクばかり。アジア映画とか、ロシアの映画監督の話とか、何派がどうのとか……。入学当初は本当にさっぱり分からなかった。ゴダールすら知らないのにパラジャーノフを知ってるわけがない。入試の時に「好きな映画」を書く欄があったんですけど、どメジャーなことしか書いてないです。『フィールド・オブ・ドリームス』とか、『ラストエンペラー』とか。よく受かったなと思いますね。今も両作品とも好きですが。

――何科に入られたんですか?

野木 映像コースの演出科でした。監督になりたかったので。

――実際授業を受けてみてどうでした?

野木 面白い人や映画作品にたくさん出会えたという意味では勉強になりましたが、授業は何の役にも立ちませんでした(断言)。

――ハハハハ。

野木 映像作品の実績がないのに講師をやっているという人が当時いたんですよ。生徒に自分の趣味嗜好を押しつけて悦に入るような。実習でも、友達が書いた面白かった脚本が、その講師の手にかかるとまったく違うしょうもない話に生まれ変わっちゃう。たとえば、ある老人と出会った若い恋人たちのちょっといい話が、なぜか兄と妹の近親相姦ものに変わっていって、妹が包丁で料理してる時に指を切っちゃって、「あっ」とか言って、その指を兄が口に含むみたいな。

――古い!

野木 古いでしょ(笑)。でも「こういう苦悩が映画なんだ!」と言われて、なんだそりゃっていう。もちろんそんな講師ばかりじゃなく尊敬できる人もいて、良かった面もあるんですけどね。でもやっぱり、実際に現場に出て働いてみないとわからないことだらけだったな。

――日本映画学校といえば校長だった今村昌平監督が提唱した農村実習ってあったんですか?

今村昌平監督 ©三宅史郎/文藝春秋

野木 私の時代はまだありました! 「日本人たるもの田植えの経験がなければいけない」という謎理論で、田植えの時期に福島の農家へホームステイに行かされるんです。1~3人組ぐらいで、1週間ぐらい泊まり込みで、そこでご飯食べて、朝から晩まで田植えするっていう。あまりのつらさに毎年脱走者が続出するみたいな話まであって。でもなんだかんだ結構楽しめました。『空飛ぶ広報室』の8話に、磐梯山のふもとに広がる田んぼが出てくるエピソードがあるんですが、実はその時の経験からです。日本人たるもの田植えをしといて良かったです(笑)。

――映画学校には漫才の授業があるって聞いたことがあるんですけど……。

野木 漫才は俳優科しかやらないですね。俳優科とのつながりは、実習で映画を撮るときに出てもらうんですよ。それがまた交渉なんです。やっぱり、みんなかわいい子とかうまい人に出てほしいじゃないですか。だから、いかに口説き落として自分の班の実習に出てもらうか。

――じゃあ、そういう交渉術も自然と鍛えられる。

野木 そうですね。いいものを作ろうと思ったら自分たちでやらなきゃいけない。卒業制作の時は、街でスカウトしたり、小さな俳優事務所をあたったりして、イメージに合う俳優を探したりして作ってました。

1年間で250本近く、全部劇場で

――その時は脚本も書かれたりしたんですか?

野木 卒業制作は脚本と監督をやりましたね。完成作品をPFF(ぴあフィルムフェスティバル)に出すつもりでいたけど、賞がとれるクオリティに達してなかったので断念しました(笑)

――影響された映画とか監督ってありますか?

野木 そう聞かれると難しいんですが……映画学校時代は映画の知識を詰め込むことに必死だったから、とにかく映画を見まくってたんです。「映画の日」は絶対1日5本見れるようにスケジュール組んで行くし、名画座で特集上映とかがあると、どこへでも行って片っ端から見てました。1年間で250本近く、全部劇場で。だから一本の映画を何回も見ている余裕はなかったんですけど、その中で、橋口亮輔監督の『渚のシンドバッド』は3回も劇場に行ってしまいました。岡田義徳さんが主人公の、高校を舞台にした群像劇なんですけど、歌手デビューする前の浜崎あゆみさんもすごくよくて。絶対この子は女優として成功すると思っていたら、いつの間にか歌手になっててホントにビックリしたんですけど(笑)。群像ものの面白さとか、切なさとか残酷さとか優しさとかみずみずしさとか、いろんなものが全部含まれている気がして。もしかしたら一番影響されたかもしれないです。

のぎ・あきこ/脚本家。2010年『さよならロビンソンクルーソー』で第22回フジテレビヤングシナリオ大賞受賞。脚本作品に『主に泣いてます』(12年)、『空飛ぶ広報室』(13年)、『掟上今日子の備忘録』(15年)など。『重版出来!』(16年)と『逃げるは恥だが役に立つ』(16年)でコンフィデンスアワード・ドラマ賞 年間大賞2016の脚本賞を受賞した。

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