「一社単独インタビューには応じない」という姿勢を頑なに貫く小泉進次郎。その独自ルールを解く瞬間が、国政選挙中に全国を飛び回る応援行脚だ。週刊文春編集部では2012年の衆院選以降、ノンフィクションライターの常井健一氏による密着取材を通して、彼の肉声を読者に届けてきた。今回の参院選で進次郎は選挙期間中、22道県98か所で街頭演説を決行。常井氏もその全18日間を追いかけ、「総理への道」を駆け上がろうとする彼の思いを探った。「小泉純一郎にオフレコなし」と呼ばれた男の息子は、<35歳の現在地>をざっくばらんに語った。(全4回)

(※この記事は、常井氏が街頭演説の移動中、全国各地で断続的に直撃したやりとりを質疑応答形式で一つにまとめたものです。質問文は編集の段階で実際よりも説明を詳しくしましたが、小泉氏の発言部分はできる限りそのままの形で掲載してあります。)

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――今回は、東北4県で農協の政治組織である農政連が「自主投票」を決め、事実上、TPP合意に反旗を翻す姿勢を鮮明にしました。自民党としては大票田を失い、いずれの選挙区でも激戦となっております。そんな中、小泉さんは演説で「労働組合は民進党に入れる、農協は自民党に入れる。もうそういう時代じゃない。一人一人が自分の頭で考えて票を入れる時代なんです」と言っている。

小泉 池上彰さんも現場に取材に来られた際に僕の演説を分析されていて、印象に残るフレーズを聞いたらそこだって言っていた。

 あれには僕の中の問題意識があって、あの枠組みが変わると思っているし、変わってほしいと思っている。政党と組織団体の結びつきのあり方がねじれているんですよ。労働組合も会社の6人に1人しか入っていない。組合員になっている人の7割が連合なんですよ。6人に1人の7割だから、連合って組織的には弱っているんですよ。

 しかも、労働組合が本来求めているような賃金を上げるというようなことを積極的に今取り組んでいるのは自民党でしょう。だから、連合は民進党をこれからも支えていくか、組合員は疑問に持っていると思う。いわき(福島県)での街頭演説では、労働組合の人まであの会場に来てくれていたんですよ。珍しいですよ。

 農協の中は逆で、これからも自民党でいいのかと迷っている。自民党というものとべったりとやってきた農協というのがTPPや農協改革などで自民党に対して一部で厳しい目を持っていますよね。かといって、じゃあ、本当にそうじゃない方向にするとなると農協の反自民党的な人たちは行くところがなくて、共産党しかなくなる。本当にそれでいいのかと民進党に聞いても、民進党は心の中ではTPP反対じゃないですからね。そうすると行き場がないという農協組織の揺らぎがある。

リンゴ農家で試食タイム(福島県福島市)撮影:常井健一

――でも、自民党本部としては野中広務さんや綿貫民輔さんを復党させようとして、大票田といわれる従来の支援組織と関係修復して固めようとする方向に舵を切っていますよね。そういう中で小泉さんが応援に入って、「組織の言いなりになるな」と言われたら陣営の中には気分が悪くなる人もいると思います。

小泉 たぶん、気分が悪くなるのは組織の人だと思う。僕の見立てでは農家一人一人を見たら、農協の言うことを聞く農家のほうが圧倒的に少なくなっている。あの、僕はね、肌感覚で言うと、農協に変わってほしいと思っている農家のほうが圧倒的に多いと思う。僕はそこを見ていますね。

 だから、僕の中では、これからの時代はそういうやり方は通用しなくなってくるんじゃないかと思う。もしもね、僕が思うのは、そう遠くない時期に労働組合の人が自民党から選挙に出ますよ。むしろ、そちらのほうが自然だと思っている。そうすると、労働組合と民進党というつながりが絶たれる。民進党の存在感もなくなってきます。やっていることを考えたら、そっちの方がすっきりする。だって、賃上げで結果出したのは自民党なんだから。だから、次の選挙なのか、その次なのかわからないけど、僕はそういう時が来ると思う。

 一方で、もしかしたら農家が共産党から立候補というのがあると思う。僕はそうなったら農協組織の終わりの始まりだと思う。

大水害の被災地も訪問(茨城県常総市)撮影:常井健一

――とはいえ、全国から応援要請が殺到するはずの参院選最後の週末に無風区の茨城に入った。会場は昨年の大水害で被害を受けた常総市でしたが、全国農政連の加倉井豊邦会長の自宅がそう遠くない距離にある。「ドンへのご挨拶」という意図があったのですか。

小泉 それはねえ、常井さん、深読みし過ぎですよ。三重はそういう考えがあったけど。

(※三重での第一声は、大都市を選ばず、度会町(わたらいちょう)にあるJA伊勢の駐車場で行なった。そのトップはJA全中会長の奥野長衛。ステージでは奥野とそろい踏みし、小泉は演説で奥野の存在を持ち上げていた。)

――今回の参院選は今までの与野党の構図ががらりと変わる分岐点のような気もします。どうも、政党間の境界が見えにくくて仕方がありません。

小泉 ちょっとね、なんというかな、境界が解けてきている。「今までだったら、ここが境目だよね」というところが解け始めていて。それは岡田(克也)さんが共産党と組むというところから始まっている。

 岡田さんのように元々は自民党の人でね、いわゆる保守派と言われる人は、組んだって社会党まで、組んだって社民党まで。それが自社さだった。自民党としても、組んだってあそこまでがウイングを広げる限界だった。共産党はあり得ない。そこを振り切ったんだよね、岡田さんは。完全に戻ってこられないところまで行っちゃった。

――そういえば、進次郎さんは自民党が野党時代に当選した。

小泉 仮に自民党が共産党と野党時代に組むことを決断していたら、自民党は即分裂よ。なりふり構わずね、とにかく組むといってやっていたら、自民党の終焉だったでしょう。

各演説会場には赤ちゃんがたくさん(宮城県登米市)撮影:常井健一

――55年体制をぶっこわした細川連立政権でも、与党に共産党は入れなかった。

小泉 そこには、矜持があったんですよ。この前、討論番組を見ていたら、共産党の小池(晃)さんは「人を殺す予算」発言について各党から突かれていて、最終的にずっと言っていたのは「私たちは自衛隊は全てが人を殺すといっているわけではない」というようなことを言ってね、いろんなことを言っていたけども、絶対に言わないのは自衛隊に対する肯定的な評価。自衛隊に対する否定的評価が根本的には、根っこにあるからね。

 そんな政党と組んだって意味がない。民進党は、「ルビコンを渡った」と思うべきで、自分たちの国、主権、その最後の砦である自衛隊の肯定的な見方を持たない党に、これだけ本当にどこでテロが起こるかわからない中で、責任ある安全保障ができるのか。答えは明らかだよね。だから、僕が自信を持って演説で「他の政党の話も聞いてみてくれ、全ての話を聞いた上で投票先を判断してくれ」と言えるのは、どう考えても、今、自民党以外の責任ある政権運営、国家運営ができる政党はないから。そういう自負がある。

 だってね、平和安全法制が憲法違反だと言う共産党が、自衛隊そのものは憲法違反だと言っているけど、当面は存在を認めると言っている。つまり、当面は憲法違反を認めるということですよ。だけど、自民党には「非立憲主義だ」と言う。だったら、あなた方は「自衛隊を認めない」と言うのが護憲でしょ。このねじれをね、彼らは説明できないですよ。そういったことをシンプルに「自分の中で反論してみてはどうですか」と思えるから、「どうぞすべての党の話を聞いてください」と言える。

 三重の津で一緒に演説した谷垣(禎一)幹事長は自分の総裁経験を踏まえて説得力のあることを言っていたなと思う。(同じ野党党首経験者として)岡田さんに対するシンパシーについて言っていたでしょ。「俺たちはこういうことをやる」ということを与党に打ち出して、与党にももっと頑張らなくちゃいけないと思わせて、そのことが政治を磨いていくということが大事で、岡田さんにはそれを期待していたけども、その岡田さんが取ったのは共産党と組むという間違った選択だった。「もう政権を取るのを諦めたのか」と、そういう演説をしていたけども、その通りだね。

 選挙終わった後にどういう状況が起こるかというと、僕が演説で言ってきたように、普通であれば民進党の中から次の代表選で共産党と組むという路線に対する反対派が出て、その後、どうやって野党が再編なのか、分裂するのかというところでいろいろ動く可能性が出てくるんじゃないか。

演説のネタは各地の売店で「取材」(山形県山形市)撮影:常井健一

――小泉さんは、地元・三重選挙区で野党候補が負けたら代表辞任をほのめかした岡田氏の姿勢を選挙期間中、必ずと言っていいほど批判して、「野党から離脱派が出る」とも訴えていました。

小泉 選挙が終わってから、大きく野党が動くんじゃないかな。僕は、岡田さんが三重の結果を自分の首と連動させたことで、三重で勝っても負けても自分の首を絞めてしまった(と思っている)。岡田さんが次の民進党代表になることはない。(9月の代表選に)出たって、自分の首を選挙結果全体と連動させず、自分の地元と代表の座を連動させた人間とこれからやっていけますか。しかも、共産党と組んで、ね。もともとそういった路線に面白くないと思っている民進党の保守系の人たちは、あの発言でますます心が冷めたでしょう。あの発言は結果として自分の首を絞めたと思いますよ。

――では、その民進党の「離脱派」はどこに行くのでしょう。

小泉 離脱した人は、ゆくゆくは自民党に流れるでしょう。一番すっきりする。だから、実は民進党の中に愛想尽かした人が結構出るんじゃない。だから、大西健介さん(民進党衆院議員)が岡田・枝野(幸男)の時代は終わった、これからは40代の時代だという発言をしたんだけど、あれなんかは、まあ、選挙中から自分の代表が終わったと言うとは思わなかったけど。意外に選挙終わったら野党が動くんじゃないのかな。

「1キロ6万円」の高級米おにぎりに圧倒(福島県天栄村)撮影:常井健一

――民進党の中には野党暮らしが長引いて、政策実現がしたくてうずうずしている議員は少なくないと思います。

小泉 選挙が終わって、あちらがどう出るかだけど、共産党と組んでいる以上、野党の勝ち目はないからね。だから、憲法の話だって、民進党にボールを投げるべきなんですよ。皆さんはどこだったら(改憲に)一緒に乗れるんですか、と。

――一方で、小泉さんの演説といえば、過去4回、自民党批判、安倍批判にも聞こえる話をして、自民党を支持していない人たちに「若手に最後のチャンスを下さい」と訴えてきた。今回はそういう身内批判がほとんどなかった。

小泉 もちろん政党は完全ということはない。自民党が変わらなければならないところはたくさんある。でも、これだけ世界が動く中で責任ある政治ができる政党というのは、どこがあるんだろうか。そこは今、自民党以外にないという自負があります。

――それは「安倍政権以外にない」、ということですか。

小泉 それは、もちろん、担いでいる総裁ですから。100%考え方が同じということはあり得ませんが。それは総裁が誰であろうと「100%」ということはない。政治家はみんな違うんですから。だけど、共有する部分というのはしっかりと認識しないと前に進まない。だから今回は、まあ、そういう打ち出し方というのは、どう受け止められたかというのは有権者の反応をお聞きしたいですね。

 ただ、今回は「よくわかった」という声がすごく多かったというのが印象的でした。

落花生まくらを贈られ、ご満悦(千葉県八街市)撮影:常井健一

――何が「わかった」と思いますか。

小泉 一つは、野党のおかしさでしょうね。自民嫌い、安倍嫌い、それだけで6年間も持つわけないだろうということを野党支持者だって思っているかもしれない。政策の違いを棚上げして、一つになって上手く行かなかったことを、民主党政権時代にみんな見ているわけだから。それを分解して、人口減少に向かっていかなければならない。それに対する思いが何か伝わるものがあったのかもしれませんね。

――「わかった」というのは「説明が足りない」と言われた安保法制、安倍政権の方向性に対する納得感が小泉さんの話を通じて芽生えたということではないのでしょうか。

小泉 聴衆が気になることは、自民党がやっていることに、僕自身が何を考えているのかということだと思う。僕の演説はそこですから。公約なぞって言わないですから。

――そうですね。今回も憲法や安保法制には街頭で触れなかった。

小泉 憲法改正の部分とかは、共産党と民進党では考え方が全然違うよということは語りましたよ。憲法について、一個一個、公約の短冊を並べて言う演説は必要ないと思いますから。だから、自分の言いたいところを言ってわかってもらえばいい。

――都知事選の応援には入るおつもりですか。

小泉 もう体力が残っていない。死んじゃいますよ。

(終)

姿が見えなくなるまで「サヨナラ」(長野県諏訪市)撮影:常井健一