プライベートジェットやフェラーリといった、購入しなければ原則乗ることが不可能な乗り物ではなく、お金を出したら誰でも乗ることができる公共交通機関で高いものは何だろうか。

 2017年6月に運行開始予定のJR西日本のクルーズトレイン「瑞風」、あるいは国際線のファーストクラスあたりがまず想起されるだろう。絶対的な金額としてまず高い。「瑞風」で最も高価なザ・スイートは2泊3日で最高1人125万円、国際線のファーストクラスは東京からパリ往復が269万3000円(ANA)だ。

 しかし、これを事業者サイドからみたら、どのようなことになるだろうか。

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 これらの金額が高くなる理由として、高級な食事や酒が提供されるほか、調度品などに高級なものが用いられていることも挙げられるが、最も大きな要素は1人あたりの占有スペースが広いことにある。

 地上と異なり、公共交通機関におけるスペースは貴重だ。「瑞風」のザ・スイートは1車両でわずかに2名しか運ぶことができない。部屋の広さは高級ホテルとしてはややこぶりなサイズである35平方メートル(ちなみに航空機の個室のうち、世界で最も広いエティハド航空の「ザ・レジデンス」は11.6平方メートル)なので1名あたりの占有面積は17.5平方メートルである。

 東海道新幹線のN700系の普通車はどうだろうか。シートピッチが1040ミリ、座席幅は440ミリなので、約0.46平方メートルになる。すると「瑞風」の(ザ・スイート2名利用時)占有面積は新幹線普通車の約38倍であることがわかる。

 かりに新幹線の車両が東京と新大阪を1日2往復すると仮定すると、3日で12本の列車として運行される。乗車率をかりに60%、1座席あたりの売り上げを1万1000円と仮定すると3日間で1座席が7万9200円もの収益をあげていることになる。

 瑞風での1人あたりの占有面積は前述したように新幹線の38倍なので301万円を徴収しないと新幹線普通車と同じ売り上げを確保できない。これは単に占有スペースのみの比較なので、各種サービスにかかるコストを考慮すると、新幹線普通車よりも「瑞風」のザ・スイートのほうがはるかに割安だといえる。

 次に国際線を運行する航空機のファーストクラスとエコノミークラスを比較してみたいと思う。

 次の動画では、エティハド航空エアバスA380のクラス別の占有面積が紹介されている。

 The Economics of Airline Class
 https://www.youtube.com/watch?v=BzB5xtGGsTc
(9分8秒ごろ)

 それによれば、

ファーストクラス 3.25平方メートル
ビジネスクラス 0.94平方メートル
エコノミークラス 0.34平方メートル

 である。

 比率に直すと

ファーストクラス 9.6
ビジネスクラス 2.8
エコノミークラス 1

 となる。つまり、ファーストクラスはエコノミークラスの9.6倍、ビジネスクラスは2.8倍の運賃を徴収しないとペイしないことになる。それに対して実際の運賃は

ファーストクラス 1万4128ドル
ビジネスクラス 6140ドル
エコノミークラス 1253ドル

 エコノミークラスを1とすると

ファーストクラス 11.3
ビジネスクラス 4.9
エコノミークラス 1

 となる。これまで繰り返しているように上級クラスでは機内食や飲み物などのコストが高いうえ、キャビンアテンダントの人数も多いので、単純な比較はできないが、ファーストクラスは若干割高、ビジネスクラスはかなり割高ということができる。

現在、世界の民間航空機で最も贅沢とされるエティハド航空ザ・レジデンスのモックアップ。とはいえ11.6平方メートルであり、日本のビジネスホテルの部屋と同じくらい。ちなみに飛鳥Ⅱで最も広いSロイヤルスイートは88.2平方メートル