『貴族探偵』(麻耶雄嵩 著)

 いよいよ始まるフジのドラマ「貴族探偵」。「月9」30周年のメモリアル作品ということで、嵐の相葉雅紀、中山美穂(メイド役!)ら超豪華キャストが話題だが、読者諸賢にはぜひ放映に先立って、原作の麻耶雄嵩『貴族探偵』を手に取っていただきたい。

 著者はミステリ界きっての鬼才。これまでも推理小説の“お約束”を根底から覆すような名探偵キャラを続々生み出し(その代表が“神様”探偵。毎回必ず冒頭第一行で「犯人は〇〇だよ」と告げる!)、それによって新たな謎解き、驚きのスタイルを作りだしてファンを熱狂させてきた。

 今回の貴族探偵は名前、年齢、経歴等一切が明かされない謎の存在。名探偵のお約束どおり色んな事件現場に行きあわせては刑事に怪しまれて追い出されかけるが、そのたび警察首脳から電話が入り、刑事の態度は一変。貴族探偵に敬礼しつつ、捜査情報を提供するはめになる。深くは語られないがどうやら相当「やんごとない」らしい貴族探偵の素性を、いま流行りの言葉で言えば刑事や事件関係者がみな“忖度(そんたく)”し、協力せざるをえなくなる、という物語設定。

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 このへんの、私たち生身の人間が生きている現実社会の(暗黙の)ルールを持ち込んで推理小説空間をパロディ化していく筆さばきは、筒井康隆の名作『富豪刑事』(巨万の富をもつ主人公の刑事がカネの力で事件を解決)に匹敵する見事さだ。

 肝心の捜査、推理はすべて探偵に仕える執事、メイドらが行い(なぜなら雑事だから)、探偵本人は最後まで何もしない(かわりに事件関係者の女性を口説く)のも笑える。

 原作中もっとも衝撃度の高い中篇「こうもり」(とんでもないトリック! ご一読を)が実写化できるかどうかもドラマの見どころだろう。(愛)

貴族探偵 (集英社文庫)

麻耶 雄嵩(著)

集英社
2013年10月18日 発売

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