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石川佳純と平野美宇の壮絶すぎる争い 卓球史に残る五輪代表選考、語り継がれるべきその“意味”とは

2019/12/14
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書いているだけで胸が苦しくなるような試合数

 3月から今回のグランドファイナルまでの10カ月間に、2人がともに出場した大会を並べると、カタールオープン、アジアカップ(横浜)、世界選手権(ハンガリー)、中国オープン、香港オープン、ジャパンオープン(札幌)、韓国オープン、オーストラリアオープン、T2(マレーシア)、ブルガリアオープン、チェコオープン、アジア選手権(インドネシア)、スウェーデンオープン、ドイツオープン、ワールドカップ(中国)、オーストリアオープン、T2(シンガポール)、ワールドカップ団体戦(東京)、ノースアメリカンオープン(カナダ)、グランドファイナル(中国)と、実に20大会にもおよぶ。平野に至っては配点の小さなオマーンオープンまで出ているから21大会だ。ひとつの勝利、ひとつの敗戦が結果を左右するから、10カ月もの間、長い長い1試合を戦い続けているようなものだ。これらの他にも、世界ランキングには影響しないが重要な国内大会である全日本選手権、ジャパントップ12、そしてTリーグと、書いているだけで胸が苦しくなるような試合数だ。

グランドファイナル1回戦を戦った石川 ©AFLO

直接対決に勝利し、涙が止まらなかった石川

 8日に終わったノースアメリカンオープンは、本来はトップ選手が参加しない配点の低い大会だが、1ポイントでもほしい2人がともに参加し、決勝で石川が平野を破り、平野の65ポイントリードから逆に石川の135ポイントのリードとなった。まさにゴール直前に鼻差で抜き返した形だ。グランドファイナルで両者ともにポイントを加算できなかったため、結果的にこの直接対決が事実上の代表決定戦となった。勝った石川は、五輪で勝ってもこれほど泣きはしないのではと思うほど涙が止まらなかった。異様な迫力となった日本人どうしの決勝戦は、この試合の背景を知らないであろう現地カナダ・マーカムの観客の目にどう映ったことだろう。

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 卓球は「100メートル走をしながらチェスをするような競技」と言われるように、アスレチックであると同時に非常にゲーム性の高い競技だ。ボールと競技サイズが小さいため、アスレチックな部分さえも指先レベルの繊細さと0.1秒レベルの反応が勝敗を決める。ゲーム性については言うにおよばず、相手との騙し合い、先の読み合いとなるが故に、精神面が強く反映される。緊張によるわずかの動作の狂いがボールの行方を狂わし、心の揺れが判断を狂わす。勝ちたい気持ちが強いほどその作用が大きくなる矛盾。そうした内面と戦うために選手はときに異様なほどの大声を出し、負ければ必ず自分を責める。だから勝っても負けても涙を堪えきれない。こういう競技で10カ月もの間、緊張を強いられて戦い続ける辛さは想像に余りある。