1ページ目から読む
3/3ページ目

団体戦において選手がチームのためにできることは?

 希に見る過酷な戦いは終わった。勝者以外はやがて忘れられるのが世の常だが、この戦いは東京五輪の一部として、願わくば打倒中国の成功物語の序章として語り継がれなければならない。

 女子シングルス代表は伊藤美誠、石川佳純に確定したが、団体戦は、この2人に日本卓球協会が推薦する1人(1月6日に発表)を加えた3人で戦う。卓球は個人競技なので、団体競技のようなチームワークは必要ない。よくマスコミなどで日本女子のチームワークの良さが賞賛されるが、大衆の願望を反映した虚構にすぎない。トップ選手同士は普段はライバルであり、団体戦のときですら試合以外では別行動をするのが普通だ。大衆が期待するような仲間意識はそもそも持っていない。持っていたとしても役には立たない。応援や励ましが役に立つとしても、そんな誰でもできるようなことを賞賛する必要はない。選手がチームのためにできることは勝つことだけだ。勝たないまでも、素晴らしいプレーをすることで仲間を振るい立たせることだ。そんな、どこまで行っても個人競技である卓球で、あえてチームワークと言い得るものがあるとすれば「こいつなら勝ってくれるだろう」とお互いに思えることだ。そう思うことによって、自分のプレーに前向きな気持ちや余裕が生まれ、実力以上の力を発揮することにつながる。

東京五輪出場ならず、涙を拭う平野 ©AFLO

「品格が問われるのは負けたときの態度だ」

 団体戦の3人目が誰になるかはわからないが、過酷な代表選考レースを戦い抜いた選手たちのひとりになることは間違いない。「あれほど自分を苦しめた、憎らしいほど強いコイツが簡単に負けるわけがない」」(ダブルスなら「入れてくれる」)とメンバーがお互いに思うことによって、チームの力は最強になる。それがこの過酷な代表選考レースの収穫となる。

ADVERTISEMENT

 グランドファイナルで負けてシングルスの代表を逃した平野は、記者会見で大粒の涙を流しながら毅然とした態度で率直に心情を吐露した。多くの犠牲を払って報われなかったが、その最後の場面でもなお我々に感動を与えた。「勝ったときは誰でも輝いて立派に見えるが、品格が問われるのは負けたときの態度だ」と故・荻村伊智朗(世界選手権金メダル12個、第3代国際卓球連盟会長)は語った。まだ19歳の平野は見事にその範を示した。

※著者・伊藤条太氏によるトークライブ開催
卓球漫談 ディープ&クレイジー! 奇天烈卓球の世界
2020年1月6日(月)19:00〜 新宿Naked Loftにて