1ページ目から読む
2/2ページ目

 それでは現代日本のパングラマーたちの作品を紹介してみたい。エントリーナンバー1、バカリズム。ええ、あのお笑い芸人のバカリズムです。言葉遊びネタを得意とする芸人さんなので私も大ファンです。彼の代表的な芸に「バカリズム案」というのがあります。プレゼン形式で変な提案をしてゆくという漫談。その中に「言葉に関する案・いろは問題」というのがあって、これがまさにパングラム。いろは歌について「濁音使ってんじゃん」とツッコミを入れ、決して日和ったりしない「いろはにほへとに代わるもの」を自ら作ってみようと挑戦するのである。DVD「バカリズムライブ番外編 バカリズム案6」に収録。

網タイツを履き(あみたいつをはき)
愛媛や奈良の地へ(えひめやならのちへ)
さまようロケする(さまようろけする)
故にクソ漏れて(ゆゑにくそもれて)
お尻拭かぬ(おしりふかぬ)
専務と猫(せんむとねこ)
WHY?!(ほわゐ)

ヘイ!ロリコンたち聞けよ!(へいろりこんたちきけよ)
暇なら休みを合わせ(ひまならやすみをあわせ)
毛布干して(もうふほして)
ぬるめのお湯に浸かれ(ぬるめのおゆにつかれ)
外は寒くねえ(そとはさむくねえ)
YEAH!(ゐゑ)

「WHY」が「ほわゐ」だったり、「YEAH」が「ゐゑ」だったりする強引さが笑える。バカリズムさん、完全に「ゐ」と「ゑ」の扱いに困ってるじゃないですか。実際のネタでは文章を絵に起こしたイラスト付きなのでさらに可笑しいです。自画像が似ている。

ADVERTISEMENT

 続いてエントリーナンバー2、竹本健治。ミステリ作家の方なのだが、いろは歌作りが趣味なんだそうで。ミステリ界きっての囲碁好きで知られる彼は、パズル遊びとしていろは歌を楽しんでいるようである。短歌雑誌「短歌研究」2013年11月号で「いろは歌に挑戦」という特集がなぜか組まれたのだが、そこに自選いろは歌を十五首寄稿している。いろは歌の数え方は首でいいんだろうか。

暗闇ひそむ殺人鬼(くらやみひそむさつしんき)
真夜経ける頃睨めわたす(まよへけるころねめわたす)
ナイフは研がれ血に飢ゑて(ないふはとかれちにうゑて)
獲物焦りぬ威を覚ゆ(えものあせりぬゐをおほゆ)

ケンタウロスよ星降らせ(けんたうろすよほしふらせ)
琴座のベガも笑み送れ(ことさのへかもゑみおくれ)
天ぞ指にて螺子廻る(あめそゆひにてねちまはる)
夜話を紡ぎぬ営為なり(やわをつむきぬえいゐなり)

 夢野久作の『猟奇歌』を思い起こさせるミステリ作家らしい一首目と、宮沢賢治の世界をイメージしたらしい二首目。作家としての引き出しの多さを感じる。最大の難関である「ゐ」「ゑ」を正しく使っているのがポイントだが、バカリズムに言わせれば「濁音使ってんじゃん」となってしまうな。


予告★はいよいよエントリーナンバー3、山田航の登場!