パングラムとは同じ文字を使うことなく文を作ることばあそびです。前回は傑作をいくつか紹介しましたが、著者はこれを超えることができるのか!?

 ではいよいよエントリーナンバー3、山田航の登場である。バカリズムにも竹本健治にも突っ込まれないよう、「歴史的仮名遣いを正しく使う」「清音と濁音はちゃんと区別を付ける」というルールでやってみた。

露草のやう眠り姫(つゆくさのやうねむりひめ)
永遠を君に誓ふ(えいゑんをきみにちかふ)
答へは忘れゐて宜し(こたへはわすれゐてよろし)
間抜けな空もあると仰せ(まぬけなそらもあるとおほせ)

 どうだろう。なかなかきれいに作れたんじゃないかな。「永遠(えいゑん)」って便利な言葉だな。

 さて、次はちょっと趣向を変えてみる。「ゐ」と「ゑ」は使わない。手抜きじゃない。書店や図書館の蔵書検索機とかに、五十音が並んでいて一字ずつ指で押すタッチパネル形式のやつがあるでしょう。あれって入力しづらいよね。「あれ、『め』ってどこだったっけ?」って感じになっていつもおたおたするよね。あれがすでに頭の中に入っている覚えやすい文章だったら、「あ、『め』はここだな」ってすぐにわかると思う。だからあのタッチパネルの文字盤に含まれている「あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわをん」+「ゃゅょ」(拗音)+「っ」(促音)+「ー」(長音)の51字でパングラムを作る。これはきっと役に立つ。

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さよならターシャ(さよならたーしゃ)
秘密の恋(ひみつのこい)
俺はちょっと胸を震わせ(おれはちょっとむねをふるわせ)
野球へ行く(やきゅうへゆく)
明日も塗り絵にかまけてろ(あすもぬりえにかまけてろ)
細麺(ほそめん)

 よく読んで下さい。ちゃんと51字。一字のかぶりもないですね。たぶんこの男はターシャさんに失恋して、気を紛らすために野球観戦にでも行ったんだろう。塗り絵はターシャさんの趣味で、毎日のようにやっていたんだろう。付き合っているときは「少女みたいで可愛い」とか言っていたくせに、振られた途端に「なに不思議ちゃんぶってんだよ」と毒づいて憂さ晴らしをしてみたくなったんだろう。最後の「細麺」は、まあ、野球観戦後にラーメン屋にでも寄ったんじゃないだろうか。天下一品に。「こってり・細麺」の組み合わせがきっとこだわりなんだ。もしくはターシャのあだ名。ガリガリに痩せてるから細麺。どうですか。全国の書店と図書館はタッチパネルの文字盤にこれを使うべきではないですか。これなら「えーと、『め』だから細麺の『め』」とすぐに思い出せて便利ではないですか。

 もう一つ気になっているものがありまして、パソコンのキーボードの文字配置。このカナの配置はいったいどういう規則性に基づいているものなんだろう。何か意味があるのかもしれないけどわからない。使用頻度の高さとかで決めているのかな。左上から順番に「ぬふあうえおやゆよわほへーたていすかんなにらせちとしはきくまのりれけむつさそひこみもねるめろ」。46字。これもいろは歌のようにちゃんと意味のある文章にすれば覚えやすくなって、かな入力派の人に優しいのではないか。そう思って、考えてみた。

秋田小町との(あきたこまちとの)
馴れ初めはすかいらーく(なれそめはすかいらーく)
ヒモへ餌やりしておけ(ひもへえさやりしておけ)
不法任務よ(ふほうにんむよ)
罪許せぬわ(つみゆるせぬわ)
寝ろ(ねろ)

 秋田小町とすかいらーくで出会い付き合い始めるもヒモと化した男が、餌やり(=食事)を要求する。しかし女が断り、相手のその無責任さを断罪し、「とりあえず寝ろ」と諭す。あれ、優しいやん。とりあえずこれでかな入力派の人にとってはキーの配列が覚えやすくなり、タイピングの速度を速めるための大きな支えになるのではないか。ならないな。とりあえず言えることは、使える文字数が減ったら簡単になるのかと言えば案外そうでもないことだ。「を」がないのは意外と罠だった。自然な文章が作りにくい。

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