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 しかしなんだかんだいっても、日本語の「音」そのものって意外に多い。「濁音使ってんじゃん」というツッコミを避けるために濁音を排してきたけれど、むしろ濁音を使わない方がおかしいじゃないか。清音も濁音も両方あっての日本語だろう。ついでに半濁音(ぱぴぷぺぽ)も。本当に、本当に日本語パングラムを極めたいと思うのであれば、「あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわをん」+「がぎぐげござじずぜぞだぢづでどばびぶべぼ」(濁音)+「ぱぴぷぺぽ」(半濁音)+「ゃゅょ」(拗音)+「っ」(促音)+「ー」(長音)にさらに小さい「ぁぃぅぇぉ」と「ヴ」まで付け加えた82字で、完全パングラムを目指すべきではないのか! それくらいやらないととても山を登り終えた感覚にはならないんじゃないか! やらなければいけない。なぜ文字で遊ぶのか。そこに文字があるからだ!

オペがポジれるぞ(おぺがぽじれるぞ)
フィギュアこそ女体さ(ふぃぎゅあこそにょたいさ)
チェキせねば写メも(ちぇきせねばしゃめも)
ほぼ膝曲げず(ほぼひざまげず)
パヴァーヌ見続けては(ぱヴぁーぬみつづけては)
プロだわ(ぷろだわ)
揺らぐぜクピドゥ(ゆらぐぜくぴどぅ)
ウォッカを飲む(うぉっかをのむ)
海老で名古屋へ呼べブリヂストン(えびでなごやへよべぶりぢすとん)

 ちゃんと82字ですね。女子フィギュアスケートの大ファンの、名古屋在住のお医者さんなんでしょう。フィギュアが観られるから嬉しくて手術もポジれるんですね。「フィギュアこそ女体」って見方が若干やばい気がしますけど。チェキに写メに準備万端で、相当気合入ってますよ。しかもずっと立ちっぱなし。パヴァーヌをバックミュージックに使う選手だったんですかね。その技術に「プロだわ」と感嘆してご満悦の様子です。そしてなんかクピドゥを刺激されちゃったみたいですね。クピドゥはローマ神話の愛の神のこと。キューピッドと同じですね。「揺らぐぜクピドゥ」ってすごい表現ですが、きっと彼にとって最高の賛辞の言葉なんでしょう。上機嫌でウォッカを飲んでほろ酔いになって、お気に入りの選手を海老で釣って名古屋に呼んでくるようにブリヂストンに注文をつけるわけですね。やっぱりエビフライにするんですかね。なんでブリヂストンを相手に選ぶのか。お金は持ってそうだけど、名古屋ともフィギュアともそんなに関係なさそうだが。

 まあ使用頻度の低い字から先に使っていくので、日本語ではほとんど使用例のない「ぢ」から消していこうとした結果ブリヂストンが出て来たわけですけどね。小さい「ぁぃぅぇぉ」も接続できる字が限られてしまうので初めの方に使ってゆく。「ぱぴぷぺぽ」も日本語では使用例が限られるので早めに。「フィギュア」「パヴァーヌ」「クピドゥ」あたりは、気難しい厄介者を手早く片付けようとした結果出て来た語彙なわけです。それにしても全文を読み返してみると「ぱぴぷぺぽ」の存在感がすごいですね。「ぱぴぷぺぽ」が全部使われている日本語の文章って、それだけでだいぶ不自然なんですね。

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 しかしパングラムの体力の消費量はやばい。言葉遊びの中でも、必要となる脳の持久力はトップクラスかもしれない。言葉遊び界のマラソン。みんなもパングラムを作ってみよう! そしてあわよくば、フォントのサンプルに使われて小銭を稼ぐことを目指そう! 競争だ!