文春オンライン

118階ビルの受付で取材班全員の顔写真を撮影……テック都市・深圳で見た日本との“共通点”

AI超大国となった中国で実感した、これからの自由のあり方

2019/12/24
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「平安テクノロジー」のCEOが語った「正答率99.8%」

 社長室で私たちを出迎えたのは、中国平安保険の子会社でテクノロジー部門を担う「平安テクノロジー」のCEO陳立明(エリクソン・チャン)。この会社には8000人ものAIエンジニアが働いており、親会社のテクノロジー開発を担うだけでなく、他社にもその卓越した技術を提供している。なかでもこのテック・カンパニーが突出しているのは、顔認識技術とそれを活かした感情解析の部門。

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 まず顔認識技術は、チャンいわく「正答率は99.8%、1000人のうち2人間違えるかどうかで世界最高レベルです。痩せたり太ったり、髭を生やしていても正しく認識出来ます。この技術を用いて、私たちは“PAY BY FACE”、つまり『顔決済』の技術を提供しています。この118階のビル全体においても、社員食堂や社員向けのコンビニは、クレジットカードや社員カードを使う必要はなく、カメラに顔を向けるだけの顔決済です。これからクレジットカードは用済みになります。ドアの鍵もいらなくなるでしょう。これまでクレジット(信用)カードという『信用』を持ち歩いていたわけですが、これから顔そのものがその人の信用になるわけですから、本当の信用に近づくわけですよ」

「これからは幸せの選択肢が増えるはずです」

 街のいたる所にカメラがあり、顔認証が唯一の信用となり、AIがさまざまな労働を代替する社会、それをチャンは予測する。

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「重労働や辛い作業が減ることを良しと思うかどうか。さらに苦痛が減ることが果たして幸せなのかどうかは諸説あります。わたしはよく自転車を例に考えています。たとえば、自転車が誕生した初期のこと、それは単純に移動手段でした。でもいまや自転車の多くは楽しみのためにあります。もちろん自転車で汗をかいて仕事のために移動している人もいるでしょうが、それは多くはありません。多くは趣味として自転車は使われています。

 これから重労働を機械がやってくれる時代が来れば、仕事の達成感が減るという人もいますが、わたしは労働の選択肢が広がることだと考えています。重労働をあえてやるという選択肢もあるし、ルーティンの仕事を機械に任せて自分の時間を楽しみ、それこそフィットネスや趣味のために自転車を漕いで汗をかくという人もいるでしょう。これからは幸せの選択肢が増えるはずです。わたしはそのようなテクノロジーを愛しているのです」

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