公的な場における「萌え表現」の使用を許容するか否かという問題は、ひとたび火がつくと大いに燃え上がる。今年10月上旬、NHKがノーベル賞解説サイトに人気バーチャルYouTuberのキズナアイを起用した件についてもそうだった。

「キズナアイは性的に強調されて描かれている」

 詳細は他の報道に譲るが、まず弁護士の太田啓子氏が自身のツイッターで「NHKノーベル賞解説サイトでこのイラストを使う感覚を疑う」、「女性の体はしばしばこの社会では性的に強調した描写され(ママ)アイキャッチの具にされるがよりによってNHKのサイトでやめて」と主張し、大きな波紋を呼んだ。

NHKニュースウェブ『まるわかりノーベル賞2018』に登場したキズナアイ。彼女の姿を「性的」と感じるかは人それぞれだろう

 また、太田弁護士の発言に刺激を受けた社会学者の千田有紀氏はYahoo! Japanの記事上で、当該のNHKサイト中でのキズナアイの姿が女性の受動的な性別役割分業を象徴するものだと主張。またキズナアイは性的な面を強調して描写されているとも指摘し、NHKの当該サイトの取り上げられ方は好ましくないと論じて注目を集めた。

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萌え表現をめぐり“戦争”勃発中の日本。では台湾は?

 10月末時点でキズナアイはNHKのサイトから削除されていないのだが、類似の議論は過去にもあり、2015年に三重県志摩市の公認萌えキャラ・碧志摩メグが「性的」だと抗議を受けて公認を撤回された。

 また、岐阜県美濃加茂市観光協会のポスターが同様の批判を受けて撤去された例や、東京メトロのキャラクター「駅乃みちか」の萌え化イラストのスカートの描写が修正を余儀なくされた例もある。

 いっぽう、ネット上を中心に、萌え表現を問題視する指摘そのものの妥当性の是非を論じたり、抗議がもたらす表現規制への影響を懸念する声も多い。こちらはこちらで、ときにフェミニスト全体を敵視するような強い言葉が見られがちだ。

 日本において、公的な場における萌え表現の使用については、抗議をおこなう側もそれに再抗議する側も、議論の最前線で戦う人たちはいずれもピリピリしている。フェミニストなりオタクなり、それぞれの側の人たちのアイデンティティの根幹に関わる問題であるだけに、ひとたび「戦争」が始まると収集がつかなくなるのだ。

 ところで、大企業や公共機関などによる萌えキャラクターの使用は、実は日本に限った話ではない。なかでも際立って多いのが、隣国の台湾における例だ。事例を見ていこう。