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「性的で不快だ」という声はほとんどない

 ともかく、台湾では日本以上に公共圏において萌え美少女キャラクターがあふれており、社会のユルさの増進に一役買っている。上記では紹介し切れなかったが、台北の繁華街・西門町のイメージキャラである林黙娘ちゃんは台湾の伝統的な神様である媽祖の萌え化美少女キャラだ。もはや日本のオタクカルチャーの単純な模倣ではなく、現地の文化と融合した台湾の独自文化と化している。

 だが、現地ではこれらの萌えキャラについて「性的で不快だ」という批判の声はほとんど出ておらず、普通にかわいいものとして受け入れられている(ちなみに同人業界に対しては、「公共系」のキャラについては18禁表現を自粛するように呼びかけられている)。

国会議員の38%が女性(日本は14%)

 ここで付言すれば、台湾は東アジアでは有数のフェミニズム先進国で、女性の経営者や管理職も多い。国会議員に相当する立法委員の女性率は38%に達し、国際平均の22%を大きく上回る(なお、日本は13.7%で世界140位である)。国家のトップである総統の蔡英文も女性なら、最大野党・中国国民党の前党首も女性だ。

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 1980年代以降の中華圏の都市部では、日本と比べると女性の地位がもともと比較的高いのだが、現在の台湾のフェミニズムに大きな影響を与えてきたのは婦女救援基金会(婦援会)というフェミニスト団体だ。

 彼女らは日本では、慰安婦問題での対日抗議運動で知られている。ただ、そちらが必ずしも活動のメインというわけではなく、DV防止や売春反対運動、東南アジア女性の台湾への人身売買の反対運動などでも活発に動いている(慰安婦問題に抗議しているのも、そもそも彼女らが売春や性搾取それ自体に反対する立場だからだ)。

 私が2016年春に当事者に取材したところ、婦援会は台湾社会が民主化しはじめた最初期の1987年に結成され、当初は山岳部の少数民族の女性の人身売買を防止する活動に注力。台湾ヤクザから脅迫電話を受けながら人権擁護のために戦ってきたという。そうした行動の先に、現在の台湾の社会があるとも言える。

台湾の蔡英文総統 ©AFLO

美の理想形を強調しすぎるのはよくないが……

 なお、婦援会の関係者の1人に萌え表現の氾濫についての感想を聞いてみたところ、「会の公式見解ではなく、個人的な感想」と断った上で、以下のようなコメントを寄せてくれた。

“アニメ的な人物を起用するのは面白い試みだと思います。ただ、私としては女性の体型を強調しすぎるのはよくないと思いますね。理由は、いま多くの人がモデルのスリムすぎる体型に反対しているのと同様の理由からです”

“セクシーさであれスリムさであれかわいさであれ、社会に対して刷り込まれているよくない概念で、女性が『必ずそのようでなくては他者から好感を持たれない』と考えてしまう(のはよくありません)。どんな体型でもどんな顔立ちでも、それが自分の魅力ですよ”

“特にアニメが好きなのは青少年が主です。彼らは女性の体型や顔立ちに対して、健康的な見方をしてほしいと思いますね”

 つまり、萌え描写が女性差別になるから駄目なのではなく、萌えキャラでもモデルでも特定の美の理想形「だけ」が社会での標準規範になることで女性の生き方が窮屈になるのは良くないという意見のようだ。こちらの理屈は男性にとっても同様の話であり、理解できる気がする。