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現役引退した上原浩治が作家・万城目学と振り返る「孤独だったからこそ強くなれた、ぼくらの雑草時代」

現役引退した上原浩治が作家・万城目学と振り返る「孤独だったからこそ強くなれた、ぼくらの雑草時代」

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「パワースポットって、誰が決めたんだろ?」

万城目 メジャーに行った後の話も、2010年のシーズンは全然うまくいかなかったと書いてある章が俄然面白いんです。気分を前向きにするためにいろいろ試したという流れの中で、〈丸刈りにしてみたり、休みの日には海に泳ぐわけでもなく行ってみたり、そこを勝手にパワースポット認定してみたり……〉。最後の「パワースポット認定」って、これ何ですか(笑)。

上原 「パワースポットって、誰が決めたんだろ?」って思っちゃうタイプなんです。「誰かが勝手に決めたんちゃうの?」と。ならば自分で勝手に「ここがパワースポットだ」と決めて、そこへ行けば気分が上がるんだって思うのも一緒じゃないですか。

万城目 ちなみに、どこをパワースポット認定されたんですか。

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上原 自主トレの練習場所の近くにあった海です。そこで練習していたメンバーがみんな良い成績を収めていたので、「じゃあ、ここが俺のパワースポットでいいや」と。

 

万城目 2013年には、メジャーで日本人初のリーグチャンピオンシップ&ワールドシリーズ胴上げ投手に。確かにパワースポットだ。

上原 成績が良くない年も、そこで自主トレしていたんですけどね(笑)。でも、別に根拠なんてなくていいんですよ。自分の気持ちを盛り上げられるのであれば。

小説家は10万部、投手は7割

万城目 自信について書かれた章も良かったですね。自信は永遠に持てないものだとしたうえで、〈どんな一流であっても不安があるからこそ、練習をし、なんとか自信を得ようともがいているのではないだろうか〉。ああ、ほんまええことおっしゃるわと。

上原 自信って、やっぱりないものですか?

万城目 ないですねぇ。ちょうど今、2年間連載している長編小説がラストのところまで来ているんですが、読者に受け入れてもらえるのか不安です。

上原 小説って、どれぐらい売れたら「勝ち」なんでしょうか。

万城目 単行本で10万部、じゃないですかね。今まで僕は小説を10作ぐらい書いてきて、それができたのが3回ぐらいです。打率でいうと3割か。

上原 野手だったら大成功ですね。

万城目 でも、10試合先発完投して3勝だと思うと、弱いな。

上原 そうなんですよ。野手だったら打率3割は大成功ですけど、ピッチャーに求められるのは7割の成功ですから。ましてやクローザーは9割ぐらい求められますからね。メッチャきついです。だから人生は、野手の気持ちでいた方が絶対に得。打率3割を目指すというか、「10回中7回失敗できる」という気楽さを持っておいた方がチャレンジできると思うんです。

万城目 ……ちょっとやる気が出てきました(笑)。

上原 人生って、うまくいかないことのほうが多いですよね。失敗がつきものなんだから、それをどう活かすか。失敗を悔しいと思うのか、別にいいやと忘れてしまうのか。野球でも打たれて悔しい、失敗して悔しいから練習するわけであって、そうでない人は多分その辺で消えていくと思うんです。活かすも殺すも自分次第だな、と。