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現役引退した上原浩治が作家・万城目学と振り返る「孤独だったからこそ強くなれた、ぼくらの雑草時代」

現役引退した上原浩治が作家・万城目学と振り返る「孤独だったからこそ強くなれた、ぼくらの雑草時代」

野球は個人競技だと思う

万城目 めちゃめちゃいい話ですね。僕も予備校時代にくすぶりながら、持て余した時間を使って小説ばかり読んだんです。それが結果的に、今に繋がっていると思うんですよね。もう一つ言うと、新卒で入った会社を辞めた後の無職時代が大きかった。小説家になるまでの3年間を振り返ると、中学校の3年間、誰もいない教室で、ひとことも口を利かずに机の前にひとり座って、ずっと小説を書いているイメージです。そういう孤独な時間を過ごす中で、何もかも能力が上がっていったんですよ。

上原 いざとなったら1番強いのは、孤独で頑張ってきている人だと思います。周りに流されないですし。僕も自主トレは絶対に1人だったんですよ。仲のいい誰かと一緒にやると、やり易かったとしても相手に合わせなければいけない部分は出てくるものです。そもそも笑顔がある練習ってどうかな、と思うので。本当に真剣になる時って、笑顔は作れないと思うんですよね。

 

万城目 孤独に親しむコツみたいなものはあります?

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上原 野球は団体競技だとみなさん思っているでしょうけど、僕は個人競技だと考えているんですね。だって、マウンドに上がったら誰も助けてくれないですから。バッターも同じですよね。個人競技をしている人たちの集まりが野球だと僕は思っている。だから、孤独は特別なことじゃないんですよ。

他人がうまくいってない話が面白い

万城目 この間出した『べらぼうくん』は、予備校生になった瞬間から、大学卒業後、2年くらい会社勤めしたのち、小説家になろうと会社を辞めて、無職時代を過ごし、30歳でなんとかデビューしたところで終わるエッセイ集なんです。

上原 『べらぼうくん』、いいタイトルですね。

万城目 ありがとうございます。『べらぼうくん』に書いたことって、要は“ずっとうまくいってない話”なんです。「面白いエッセイとは、他人がうまくいってない話について書かれたもの」という持論があるんですよね。例えば有名になって成功して、高くて美味しいご飯を食べました……みたいなことが書いてあるエッセイって全然面白くないと思うんです。上原さんの新刊『OVER 結果と向き合う勇気』は成功した時の話もありますけど、今年の春に引退するって決めた頃のことが書かれているじゃないですか。めちゃめちゃリアルだし、面白かったです。

上原 辞めると決めるまでの心境が、延々と書いてありますからね。