「電車」と言ったら架線からパンタグラフを通じて電力を得て、それをエネルギー源にして走っているものだ。で、一方「気動車」といえば油を燃やして走るタイプの車両。架線のない非電化区間に電車を走らせることはできないので、この気動車が活躍している。
と、いまさら改めて説明するまでもないような当たり前のお話。ところがここ数年、非電化区間にも本来走れないはずの“電車”が走るようになっているのだ。
例えば、JR東日本の烏山線や男鹿線。ここには、EV-E301系やEV-E801系、総じて“ACCUM”(アキュム)という愛称が与えられた“電車”が走っている。烏山線では今年の3月から全編成がEV-E301系に統一され、男鹿線では3月に“電車”がデビューしたばかりだ。他にもJR九州の若松線(筑豊本線若松~折尾)でBEC819系“DENCHA”なる電車が活躍している。
そもそも、蓄電池電車の仕組みって?
この非電化区間を走る電車、もちろん架線から電力を得ているのではなく、車両の床下に設置された大容量バッテリーから電力を得る、いわゆる“蓄電池電車”が、鉄道業界では密かなブームになっているようだ。
では、鉄道会社は一体なぜ“蓄電池電車”の導入に取り組んでいるのか。JR東日本車両技術センター所長の照井英之さんに話を聞いた。そもそも、蓄電池電車の仕組みって?
「一般的な電車とは、パンタグラフから電気を取るか蓄電池から電気を取るかの違いがあるだけです。基本的にあとは電車とまったく同じ。烏山線は当社が試験車を走らせて得た技術的蓄積をもとに開発しまして、男鹿線のEV-E801系はJR九州さんが開発したDENCHAをベースに耐寒耐雪仕様にしたものです。烏山線・男鹿線はそれぞれ電化区間の宇都宮線(東北本線)・奥羽本線から枝分かれしている路線なので、電化区間を走っているときにパンタグラフを上げて充電、非電化区間ではバッテリーの電気を使い、終着駅では新設した充電設備を稼働する……というパターンで走っています」
ちなみに、いずれの車両もフル充電で約50kmは走れるとか。烏山線も男鹿線も20〜30kmほどの短い路線だが、万が一事故などで運転を見合わせた場合にも対応できるよう、電池容量にも余裕を持っているというわけだ。充電も約10分ほどとスピーディー。これなら終着駅の折り返し待ち時間で充分満タンにできる。では、JR東日本ではなぜ蓄電池電車の導入に積極的なのか。
「気動車、ディーゼルカーは非電化区間の主力車両ですが、電車と比べると排気ガスやCO2などの環境負荷がどうしても大きい。さらにアイドリング音など騒音の問題もあります。ただ、電化するには莫大な設備投資が必要なので、ローカル非電化路線では現実的ではありません。そこで、より環境負荷の小さい蓄電池電車を入れていこうというのが基本的な狙いです」(照井さん)