CO2排出量を約6割削減、さらに「運転士免許」の面でもメリットが
蓄電池電車なら、従来の気動車に比べてCO2排出量を約6割削減できるのだとか。そしてメリットはそれだけではない。
「一般的な電車とはパンタグラフから電気を取るか、蓄電池から電気を取るかの違いがあるだけですから、制御装置などのシステムは他の当社の電車とほぼ同じものが使えるし、メンテナンスの方法も電車と統一化できます。さらに、電車と気動車は運転士の免許が別モノなんですが、蓄電池電車なら電車の免許で運転できるという、メリットもあります」(照井さん)
なるほど、環境負荷も低減されるし機器やメンテ方式、運転に必要な免許まで統一化できるといういいことずくめの蓄電池電車なのだ。実際に乗車してみると、実に静かで気動車ならではの微振動のようなものもなく、乗り心地もバツグン。言っちゃ悪いが、男鹿線の“根本”である奥羽本線を走る701系電車と比べても遥かに快適だ。となれば、これからも蓄電池電車が増えていくことを期待したいが……。
「いや、やっぱりデメリットもあるんです。なにしろ蓄電池、リチウムイオンバッテリーがめちゃくちゃ高い。車両を導入するためのコストがどうしても高くつくんです。さらに、蓄電池電車最大のウィークポイントは電池を満タンにして走れる時間に制約があるということ。だから100km、200kmもあるような長大な非電化ローカル線に蓄電池電車を入れるというのは現実的じゃないですね。もしやろうとしたら、それこそ電池のおばけみたいな車両になってしまいます」(照井さん)
確かに……。それこそ大容量かつ小型、そして格安という革命的なバッテリーが登場しない限りは、長大非電化路線に蓄電池電車が走ることはなかなか難しそうだ。
「ただ、残念ながら鉄道車両は産業規模からいうととても小さいので、我々がバッテリーの開発をリードすることは難しいんですよね。例えば自動車とか、他の分野でバッテリー開発を引っ張ってもらわないとどうしようもない。もちろん技術開発はやめたら終わりなので挑戦は続けていきますが…」(照井さん)
と、蓄電池電車が将来あちこちの非電化区間を走る可能性は小さそう。ただ、それでも非電化区間には新たな車両を投入する計画が進行中だ。
「電気式気動車と呼ばれるものです。これまでの気動車は油を燃やしてエンジンを回し、シャフトで車輪を動かしていた。それに対して、電気式気動車は油でエンジンを回すところまでは同じですが、そこで“発電”をするんです。そして得られた電力で車両を動かす。これならば制御装置などの機器の統一化もできますし、メンテナンス方式もほぼ電車と同じになるんです」(照井さん)
ディーゼル車のアイドリング音が懐かしくなるかもしれない
この電気式気動車、今年度以降新潟や秋田の非電化区間に投入していくという。
「もうひとつハイブリッド車という選択肢もあります。これは小海線などに既に入れているんですが、電気式気動車にバッテリーがついたタイプ。ブレーキ時に生まれる回生エネルギーをバッテリーに貯めることもできます。このハイブリッド車、電気式気動車、そして蓄電池電車を路線の特徴にあわせて導入していくということになりますね」(照井さん)
JR東日本では従来タイプの気動車を新設計する予定は現在ないという。さらに言えば、JR北海道が今年度以降導入する新型気動車も電気式。アイドリング音を奏でながら田舎町の無人駅で発車を待つ気動車の姿は近い将来見られなくなるかもしれない。
自動車に例えてみれば、これまでの気動車がフツーの車で、ハイブリッド車がプリウスなどのハイブリッド車(そのまま…)、蓄電池電車が電気自動車。自動車の世界で環境負荷低減が進んでいるのと同じように、鉄道車両、気動車の世界でもエネルギー革命が進みつつある、というわけだ。
写真=鼠入昌史