人類は誕生以来、植物から様々な薬を得てきた。解熱鎮痛剤アスピリン、抗がん薬タキソール、漢方薬や甘味料のグリチルリチン。斉藤和季『植物はなぜ薬を作るのか』(文春新書)は、書名にもなっている謎にゲノム解析を糸口として挑んでいく。コーヒーはカフェインを放出することで競合植物の芽生えを阻害して生存圏を確保し、ケシはモルヒネを作り捕食者から身を守る。植物が進化で身に付けた「薬=毒」の精緻な働きには驚嘆するしかない。
戦国武将の組織論を論じるのは、和田裕弘『織田信長の家臣団』(中公新書)だ。信長の有力家臣は天下統一のために大名級の権力を持ち軍事活動を展開したが、著者はその背景に独自の分析を加える。追放された佐久間信盛の失敗の本質を織田家との婚姻関係不形成に見てとり、明智光秀が本能寺の変を完遂できた理由として織田家の本拠・尾張出身の部下がほぼ皆無だったことを挙げる。合理主義者・信長の下でも、能力以上に個人間や一族同士の絆が重視されたのだ。
徳安茂『なぜローマ法王は世界を動かせるのか』(PHP新書)の著者は、在バチカン公使を務めた元外交官。バチカン内部の視点からオバマまで歴代米政権との関係やプーチンとの争いなどを描きつつ、専用車の使用を拒み、ホームレスを宮殿に招く“型破り”な現法王・フランシスコの素朴な素顔を浮かび上がらせる。ディズニーランドより小さな非武装国家は、優れた外交力、情報収集力を兼ね備えている一流組織なのだ。
稲穂健市『楽しく学べる「知財」入門』(講談社現代新書)は、五輪エンブレム騒動などの実例を多数取り上げながら難解な知財の世界を平易に解説する。元首相夫人の鳩山幸氏が発明したキッチン用品や、ジャニーズ事務所のメリー喜多川副社長の考案した早変わり舞台衣装等の事案はユニーク。弁理士である著者が当事者に取材する様子もユーモラスに描かれており、知財の背後にある人間ドラマの数々に驚かされ、笑わせられる。
柴田悠(はるか)『子育て支援と経済成長』(朝日新書)は、気鋭の社会学者が子育て支援の有効性を示している。国家の「お荷物」と捉えられがちな社会保障(特に保育分野)への予算投入が、子どもの貧困率や自殺率の低下だけでなく、経済成長率上昇にも結び付くと分析。その経済効果は公共事業や法人税減税を遥かに上回り、投入予算の2.3倍になるということを説得的に論じている。著者が語るように「暗黙の前提を疑う」ことで、問題解決に光明が見えてきそうだ。