塩野 私なんか、書けなくなったら死ぬしかないと思っています。……だから「健康で長生きする」というのが目的ではなくて……。
新見 塩野さんとは逆に、「“健康”のためなら死んでもいい」と本末転倒している人がたくさんいますよ。それが“健康オタク”です。
他人に迷惑かけたくないなんて、楽しくない
塩野 ところで、タバコを吸ってもいいかしら?
新見 どうぞどうぞ。好きな人が吸うことは大丈夫ですよ。嫌いな人が吸うから嫌いなんです。
……“タバコ嫌い”というのは、ある意味、一神教とそっくりです。タバコも、タバコだけを見ると、体に悪い。でも、もっと広く、大きな地図を描けば、いろんな良いこともしている。今の日本には、そういう寛容さがなくなっていますね。
塩野 先生は、「そもそも、身体に悪いことは何でも楽しくて、楽しいことはストレス解消になります」なんて、愉快なことを言ってくださる。
新見 本当にそう思います。
塩野 私の時代の「家のしつけ」というのは、東京言葉で言うと、「みっともない真似はしない」というものでした。そこには、「正しいか、正しくないか」「他人に迷惑をかけるか、かけないか」とかは、一切入ってこない。他人に迷惑をかけたくないなんて、あまりに真っ当過ぎて、なんか楽しくないですよね。
新見 ……僕は、他人にちょっとの迷惑はかけても、好きなことをすればいいと思います。ところが、今の日本では「迷惑をかけてはいけない」という風潮が強すぎます。
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塩野七生氏と新見正則氏の対談「日本人よ、『健康神話』を棄てよ」の全文は、「文藝春秋」1月号および「文藝春秋 電子版」に掲載されている。
日本人よ、「健康神話」を棄てよ