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塩野七生が“イグノーベル賞医学者”と語る「健康オタクにはなりたくない」

ところで、タバコを吸ってもいいかしら?

note

塩野 結局、この実験結果から何が分かるのでしょう。

新見 われわれの体のなかでは、ガン細胞が常にできていますが、免疫を制御する細胞もできていて、ガン細胞を退治しています。その免疫制御細胞の働きに、ある種の音楽がプラスの効果を持っている、ということです。実は「音」だけではなく「匂い」も効くんです。ある漢方の匂いを嗅がせたマウスが、40~50日間も生きました。

塩野 それは「病は気から」というのも、あながち嘘ではない、ということかしら?

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新見 まさにそうです。音楽や匂いが脳を介して免疫系によい影響を与えている。

新見正則氏 ©文藝春秋

「正しい情報を伝える健康本は売れない」

 こうして始まった2人の話は、「健康とは何か」という深遠なテーマにまで展開していく。

新見 問題は、今の世の中に、“健康情報”が溢れていることです。そんなことに振り回されるより、今の自分が健康で幸せなら、それで十分。

塩野 テレビも、健康法の番組や健康グッズや健康食品のCMばかり。先生の文章で面白かったのは、「不安を煽って顧客を増やす作戦に乗るか、乗らないのか、というだけの話」と、出版界にまで通用する話をしてくれていたことです。「こうしろ」と強調する本は売れても、「正しい情報を伝える健康本は売れない」と。私も不安を煽るように書いていないから売れないんだと痛感した次第です。

朝から晩まで“健康”ばかり考える人たち

新見 塩野さんの本が売れていないということはないと思いますが、世の中で言われている“健康法”のほとんどは、一時的に流行ってすぐに廃れてしまうのがほとんどで、ブームになっている間に、資本主義の論理でお金を回して、消費者を煽っています。

©文藝春秋

塩野 先生がおっしゃる、“健康オタク”というのは、そういう情報に惑わされて“健康”ばかり考えている人のことですか。

新見 そうです。朝から晩まで“健康”ばかり考えて、数値に左右される。

塩野 そんなのつまらない、と私は思うけれども。