「同じ境遇の子を助けたいと思ったんです」
こうした紆余曲折があったために、実名公表と顔出しは悩みではあった。思うような判決ではなかったが、会見前の弁護団との打ち合わせで考えが変わり、実名公表と顔を出すことを決めた。思ったような判決ではないのに、なぜか?
「(加害者の行為も一部しか認められていないし、市側の責任は、認められないため)負けたってことじゃないですか。でも、13歳だった当時の僕のためにも、報道を見ている同じような境遇の子のためにも、『前に進む』ってことが伝わればいいと思ったんです」
そんなリスクを冒してまで、同じような境遇=いじめられている子のために、前に進むことを見せたいと思うものなのだろうか。
「もちろん、僕の視点だけなら、例えば、世界中にいじめがなく、たまたま自分だけが被害にあっただけなら、顔を出さないでしょう。しかし、客観的には顔を出すべきだな、と思ったんです。同じ境遇の子を助けたいと思ったんです」
「子どもって声をあげられないんですよ」
佐藤さんが加害者からいじめを受けるきっかけになったのは、近所で、女児が加害者の1人からエアガンで撃たれていたのを止めたことだ。さらに、いじめが激化するきっかけの1つも、いじめられていた同級生を助けたためだ。
「教師間でもいじめがあるじゃないですか。動ける人は動いていいんですけど、子どもって声をあげられないんですよ。発信できる人がしないでどうするんだ、と思ったんです。間違ってないということをちゃんと伝えないと、いじめられている子は絶望しかない」
判決によると、学校内のいじめとして原告が主張していた大半を「中学1年生男子間の悪ふざけ・いたずら・遊びのたぐい」として、「社会通念上許容されない行為であると評価することはできない」と不法行為を認めなかった。
また、加害行為を認めた部分については、原告が受けた行為の多くが「学校外や夏休み中のもの」であって、担任が認識し、認識し得たとは言えず、加害生徒の1人がカッターナイフを持ち出したのは担任がいない場面であり、市側の責任を認めなかった。
さらに、判決は、加害側のエアガンを撃つ行為については「一方的」として、不法行為としたが、電動エアガンで撃たれたことについては、「サバイバルゲームであり、不法行為ではない」と位置付けた。