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鳥栖いじめ訴訟 プロレスごっこやエアガンは「悪ふざけ・いたずら・遊びのたぐい」なのか

被害者がバッシングを覚悟して「実名・顔出し」会見に臨んだ理由

2019/12/25
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エアガンで撃たれている様子に「リラックスしている」と

「加害者の1人、あ、みんな『サバゲー』と言っていたかな。でも、ゲームをしているわけではなく、一方的に撃たれただけです」(佐藤さん)

 自宅前で加害者にエアガンで撃たれている防犯カメラの映像も提出したが、判決では「リラックスしている」と判断された。

「(加害者に)笑えって言われていたんです。気づかれないように」(同)

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加害生徒にエアガンを撃たれていた、通称「兎狩りロード」 ©渋井哲也

 判決は、いじめの起きた場所が学校内か学校外かで判断された。学校内でも、教師が見ていなければ、責任を問われず、見ていたとしても、「プロレスごっこ」は「社会的に許容される」として、不法行為に認定していない。

 また、一般に放課後であっても、通学路であれば、学校管理下として判断されるはずだが、佐藤さんへのいじめでは、通学路でも行われているものの、「学校管理下」という言葉は一回も出てこない。

 また、いじめの発覚後、佐藤さんは不登校になったが、判決では「被告生徒らの行為により、学習権、成長発達権が侵害された事実は認められない」と、一部で認められた不法行為と不登校の関係も認めていない。

文科省によるいじめ対策を判決では「義務ではない」

 これまでも文科省はいじめ対策を積み重ねてきた。2006年にいじめの定義を変更。「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」。また、「起こった場所は学校の内外を問わない」とした。

 翌2007年の「いじめを早期に発見し、適切に対応できる体制づくり」[子どもを守り育てる体制づくりのための有識者会議まとめ(第1次)]の参考資料には「いじめのサイン」として、「日常的なからかい・ふざけ合い・プロレスごっこ」などをあげてきた。

 これに対し判決は、「文科省の通知は、各都道府県教育委員会等あてに取り組みを求めた文書であって、学校設置者の地方公共団体に対して、個々の生徒・保護者に対する義務を負わせるものではない」と、具体的に学校設置者が守らなければならない規範ではないと位置付けた。

裁判資料として提出された傷跡の写真(佐藤和威さん提供)

 佐藤さんが受けた体の傷については、いじめが発覚した2012年10月23日時点では、加害生徒たちも学校側も、その傷を認識せず、母親が佐藤さんの睡眠中などに撮影した体の傷の写真についても「不鮮明」であり、「傷跡がわかるかは不明」とし、さらに「具体的な部位がわからない」として、負傷の状況については判断を避けた。

 PTSDについては、加害を認めた被告の2人の行為として認定し、他の被告の加害行為との関連は認めなかった。ただし、裁判後に症状が悪化した点をあげて、加害行為と症状の因果関係は「3年間」と限定的な位置づけをしている。

 原告側は判決を不服として、控訴を検討している。

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