新宿歌舞伎町の「上海小吃(シャオツー)」でゲテモノ料理に挑むつもりが、間違えて生の虫を食べてしまったわれわれ週刊文春取材班。
「Yさん、気づかなかったんですか?」と今さら担当編集者を咎めると、「だって、百戦錬磨の高野さんがパクパク食べてるから」との答え。私の百戦は「錬磨」でなく「連敗」だってことを彼は知らなかったらしい。昔もタイの市場で売っていた生のイモムシを間違えて食べてしまったことがある。何度も同じ間違いをするのが私の特徴だ。
さて、あらためて、調理された「虫の盛り合わせ」が運ばれてきた。「おおっ、食べ物だ!」とびっくり。姿揚げなので、形状はそのままだが、質感が「生」とは全然異なり、ちゃんとした料理に見える。火を通すとこんなにもちがうのか。
ゲテモノ料理挑戦から解放された思いで、順番に気楽につまんでいく。
まず、生のときは粉っぽくて死体じみた味がした(というか死体だったのだが)バッタは、カリッカリに揚げられ、塩味と唐辛子も効いており、まるでスナック菓子の「カール」みたいな食感。ビールが進む。
セミの幼虫は先ほどの(生の)むにゅむにゅしたタンパク質がどこへ行ってしまったかと思うくらいカスカス。栄養分が失われ、勿体ない気すらする。
続いてタランチュラ。こちらは昔カンボジアで食べた物と同じ味。前の虫二つより中身がつまっている。運良く遅れてやってきて「生」を食べずに済んだ同じく文春の女性編集者Iさんは「土っぽい」と適確な表現。言い得て妙だ。足が焦げて炭化しているせいかもしれない。
お次はサソリ。長さ十センチ。巨大なハサミと反り返った立派な尾をもっている。他の虫は北京から輸入しているが(首都に各地の名産品が集まるらしい)、これは山東省から来たという(「山東省はサソリで有名」と店長)。鋼鉄のようなボディをしているだけあり、囓るとバリバリと大きな音がする。中には灰色の内臓があり、やや苦い。
「ちょっとエビみたい」とIさんがまた鋭い指摘。たしかに、ぷりぷりした肉の部分をのぞいたエビと考えるとしっくりくる。でもいちばん美味い部分のないエビって……。
そしてラストはいよいよ巨大ムカデ。長さ二十センチ、幅は胴体が一センチ、足を入れると二センチ。これを生で喰わなくて本当によかったと思う。おそらく、これは熱帯の国から来たのではなかろうか。私も東南アジアのジャングルで生きて動いているものを一、二度、見た記憶がある。
他の虫は串から外して一つずつ食べたが、これは串のまま囓る。サソリ同様、外側はサクサク(ガサガサとも言える)、中はグレイな内臓だが、「こっちは薬っぽいですね」とIさん。たしかにちょっと漢方系の香りがする。Iさんは素晴らしい。常に冷静で適確な指摘をしてくれるこの女性が初めから居合わせてくれたら、私たちも虫を生で食べずに済んだだろうと心底残念なほどだ。
さてさて。虫の盛り合わせでどれがいちばん美味かったか。答えは巨大ムカデ。実際、「取材」を終えて他の普通の料理(こちらも美味しい)も頼んでいるのに、私はどうしてもムカデに手が伸びてしまう。理由はバランスのよさ。他の虫はハサミとか頭とか形状にばらつきがあるが、ムカデはどこをかじっても足、殻、内臓と均一で適度な香り、苦み、食べ応えがあり、火の通り具合もいい。生では超絶なゲテモノが見事なつまみになっている。
腕のよいシェフと「火の利用」を発見した人類の叡智に乾杯である。