健康、長寿を新春の願いごとにする向きは多かろう。これらの願いを体現し、観るだけで「元気に長生き」のきっかけになりそうな作品がいま、すみだ北斎美術館に並んでいる。「北斎没後170年記念 北斎 視覚のマジック 小布施・北斎館名品展」である。

信州小布施に北斎館なる施設があるのはなぜ?

 同館は江戸後期の絵師にして、《冨嶽三十六景》などで知られる葛飾北斎の作品を専門に扱う美術館。今展では、長野県小布施町にある「北斎館」が所蔵する名品が主に観られる構成になっている。

 すみだ北斎館は、北斎が生まれ育った地とされる墨田区に建てられたものであり、れっきとしたゆかりがある。では、信州小布施に北斎館なる施設があるのはなぜ? そう思ってしまうが、じつは小布施も北斎と強い結びつきがある。最晩年の北斎はしばしば小布施まで足を運び、地域を代表する文化人・高井鴻山に遇されて長い滞在を繰り返していたのだ。

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 地域に伝わる北斎作品も数多いことから、この地に美術館ができたというわけ。そんな由縁なので、小布施北斎館には北斎晩年の作が多数所蔵されることとなった。

 晩作がコレクションの主というのは、それらがかなりの名品揃いであることを示す。というのも、北斎は典型的な大器晩成型の人物だったから。「ビッグウェーブ」の名で世界的に知られる《神奈川沖浪裏》を含む代表作《冨嶽三十六景》が制作されたのは、じつに北斎が70代になってからのことだ。

《神奈川沖浪裏》 ©Getty

 その後も90歳で没するまで、創作意欲は衰えることはなかった。日々絵筆を持ち、続々と新作を描き、死の直前までエネルギッシュな生活ぶりは変わらなかったという。本人が70代で書き残したものに、

「私は90歳で絵の奥義を極め、100歳で神の域に達し、110歳ではひと筆ごとに生命を宿らせることができるはず」

 といった意を述べているものがあるとおり、彼の絵の技量は年をとるごとに上がり、画業は充実の度を増していたのだった。