演出は打ち合わせから始まっている
――90年代のコント番組といえば、98年から始まったウッチャンナンチャンによる『笑う犬の生活』にも「関係性の笑い」ということは言えるんですか?
小松 たしかに踏襲はしていますよね。もっとスタンダードな作り方ではありましたけど。
――こうしたコント番組は天才的な演者がいる場合、演者の力や存在感に引っ張られて演出するのが難しいのではないですか?
小松 まずは、収録の準備をきちんとする、環境を作るということが大事ですね。これは『ドキュメンタル』もそうですけど、ある意味フジテレビ的な演出手法なのかもしれない。僕は「フジテレビ的」っていう言い方が嫌いなんですけど、ただ、先輩たちから受け継いでいる伝統があるとするなら、「見えざる演出」が一番っていう考え方があります。
――見えざる演出?
小松 絶対笑える空気感、環境を打ち合わせの段階から作っておく、段取るということですかね。優秀なお笑いの人はみんなそうですけれども、打ち合わせの時からいろんな球を投げてきます。僕らはどれも笑うんですよ。例えば松本さんや(明石家)さんまさんが「こんなんどうや」って投げてきたら「ハハハ、面白いですね」って。でも芸人の皆さんは「これもあるし、これもあるけど、どっちがいい?」とこちらに球を投げ続けてくる。それに対するリアクション、僕らの反応を見ながらながら決断していくんですね。この僕らのリアクションが重要なんです。その上で「こうなってこうなるってことですね」と整理する。見世物になるように打ち合わせの段階で“編集”していくんです。そうやって演者の人たちに「これでいける」という確信を持ってもらって、自由に何をやっても面白くなるところまでもっていく。だから、打ち合わせの僕らのリアクションの段階で演出はすでに始まっているんです。さっき言った環境づくりが始まっているんです。
――現場で作り込む、ということではないんですね。
小松 演出の意図が目に見える状態は、あんまり素敵なことだとは思わない。例えば『ドキュメンタル』のあらかじめ決められた設定やルールだって「演出」なんです。
本当はルールなんてないほうが、すさまじい笑いが撮れるかもしれない。あるいは地獄絵図になる(笑)。でも、この地獄絵図は何の縛りもない状況であれば、本当にただの地獄絵図になってしまいます。だから最低限バラエティとして、笑いのショーとして時間制限をつけるなどのルールを設けるんです。あらかじめ縛りを入れることによって笑いが生まれる状況は整理されて、エンターテインメントに仕上がることもあるんです。
こまつ・じゅんや/1967年生まれ。京都大学在学中に「劇団そとばこまち」に所属、放送作家としても活動した。90年フジテレビ入社。バラエティ番組制作に携わり続け、『ダウンタウンのごっつええ感じ』『笑う犬の生活』で90年代のコント番組を牽引した。関わった番組は他に『笑っていいとも!』『SMAP×SMAP』『トリビアの泉』『IPPONグランプリ』『ほんまでっか!?TV』など多数。現在は共同テレビジョン第2制作部部長として、『ドキュメンタル』『人生最高レストラン』『チコちゃんに叱られる』など多様な番組をプロデュース、演出している。