東京が56年ぶりの五輪を迎える2020年、政治や経済、国際関係はどう変化しているのか。スポーツや芸能、メディアや医療の世界には果たしてどんな新潮流が――。各界の慧眼が見抜いた衝撃の「近未来予想図」。

 今回は、総務大臣秘書官などを歴任した岸博幸氏が、日本の移民政策の在り方、外国人労働者の急増について予測する。

(出典:文藝春秋2016年7月号)

「外国人技能実習制度」を利用する外国人労働者が急増

 日本を訪れる外国人観光客はこの4年間で3倍以上に増えましたが、同じような現象が、2020年に向けて、移民や外国人労働者でも起こる可能性はあります。

 国連では12カ月以上その国に居住すれば「移民」と定義しています。日本国籍の取得を前提に来日する「移民」がこれから急激に増えるというより、“中短期の移民”とでもいうべき外国人労働者が急増するでしょう。現在、日本で働く外国人労働者はすでに90万人以上いますが、それがさらに拡大していくのです。

 では、実際にどんな分野で増えていくのでしょうか。

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 当面のうちは、「外国人技能実習制度」を利用して来日する労働者が、圧倒的多数を占めます。

 彼らは大部分が単純労働に従事しています。都会ではコンビニやファミレスなどの深夜労働でアジアの人たちを多く見かけますが、今後拡大が見込まれるのは、人口減少が進む地方です。特に建設現場や工場、サービス業などは人手不足が深刻で、経済成長にとって1つのボトルネックになっています。さらに農業や漁業にも、技能実習制度で外国人労働者が増える可能性はあります。

特区で拡大する外国人労働者の受け入れ

 安倍政権は「移民政策は考えない」というスタンスですが、実は、人手不足が慢性化するなかで、経済成長のために外国人労働者を増やすことには前向きです。技能実習制度で外国人が働ける上限は3年間ですが、安倍政権でもこの期間を延長させようとする動きもあります。

 ただ、技能実習制度は「日本で習得した技能を母国の経済発展に役立ててもらう」という建前です。現状は外国人が安い労働力として都合よく使われているとして、国連から「強制労働」と指摘されるなど評判はよくありません。

 そこで拡大が見込まれるのが、規制改革を集中的に進める「国家戦略特区」を活用した、外国人労働者の受け入れです。実際に動き出しているのは家事支援人材。すでに大阪市と神奈川県でスタートすることが決まり、他の特区でも検討されています。特区なら、自治体がやる気になれば、その地域で力を入れていきたい分野、たとえば農業、漁業でも受け入れ可能になる。農家の高齢化、人手不足、さらにはTPP時代となり「攻める農業」が求められる時代です。いわば、地方創生を外国人に手助けしてもらうことになります。このように国家戦略特区、地方創生特区の制度を利用する動きは、全国に広がっていくでしょう。

外国人への免疫がついてきた日本人

 さらに、2020年までに“移民”が増える理由として、制度的な問題より影響が大きいのは、日本人の外国人に対する心理の変化だと思います。

©時事通信社

 これまで、移民や外国人労働者の話になると、日本では「治安が悪くなる」「日本の文化や風習が壊される」ことなどを警戒する声がよく聞かれました。一種の外国人アレルギーです。この意識が、日本の移民に対する議論を歪めてきました。

 この傾向はここ数年で変化の兆しが見えてきた。外国人観光客が急激に増え、街なかや電車、飲食店などで外国人の姿を見るのが当たり前になったからです。都市部に限らず、地方でも日常的に外国人を見かけるようになり、電車の行き先を尋ねられるような接点が増えました。

 その結果、日本人が抱えていた外国人に対する警戒心も薄れていく。東京オリンピックに向けて外国人を日本に迎えようという社会のムードは、移民問題を考える前提を大きく変える可能性を秘めています。