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高度人材をいかに呼び込むか

 このまま日本の人口が減少をつづけると、長期的な経済成長は困難だといえます。それを乗り越えるには、日本の労働人口を増やすか、生産性を高めるしか方法はありません。

 そう考えると、本当に増えてほしいのは外国人のなかでも、学術研究者、専門家や技術者、経営者などの「高度人材」です。生産性を高めてイノベーションを起こすには、高度人材の存在が欠かせません。

 イノベーションは異質なもの同士が結びついて起こるといわれます。人種や価値観、宗教などが異なる人材が日本に集まり、多様性に富んだ社会になるほど、イノベーションは起こりやすくなります。他の先進国に比べて日本の生産性は低いといわれますが、流れを変える起爆剤にもなり得るのです。

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 しかし現状では、日本が高度人材をうまく呼び込めているとは、とても言えません。政府は、高度人材の受け入れを促進するため、学歴や年収などのポイント制で一定点数に達すると、在留期間が5年に延長されたり、永住許可が得やすくなったりする優遇制度を設けましたが、こんな上から目線の政策がある国に優秀な人材が集まるでしょうか。

日本固有の魅力を武器に

 そもそも現在の日本は、高度人材から見れば魅力的とはいえません。どこが人気かといえば、まずアメリカであり、次いでカナダ、オーストラリア、シンガポールといった国です。これらの国は、移民に寛容であり、外資系ベンチャーが起業しやすい制度やインフラを整備して、政府がお金を払ってでも優秀な人材を集めようと努力している。日本はその点でかなり後れをとっています。

 それでも私が教えている大学院に、びっくりするほど優秀な留学生が来ることもあります。たとえば、米国の一流大学院に留学してもおかしくないレベルの人が、日本のアニメが大好きだからという理由で日本を選んでくれたのです。スリランカからは天才技術者が来て、いまや居ついている。金融界でも、シンガポールや香港に拠点を持つヘッジファンドのトップたちは、税率や規制、教育や病院などの条件が同じなら、東京に拠点を置きたいと話しています。理由は、寿司に代表される世界一の「食」であり、安全で清潔な街、そして礼儀正しい日本人の人柄です。

 日本が長期的な経済成長をめざすなら、そのような日本固有の魅力を活かし、もっと多くの高度人材を呼び込む努力をする必要があるのです。

出典:文藝春秋2016年7月号

岸 博幸(慶応大学大学院教授)