中国への接近を図る文在寅大統領
一連の首脳会談を通じ、韓国は挑発姿勢を強める北朝鮮への対応において、日中と協力していくことで一致した。その点では米国の意に沿うものの、冷え込んだ中韓関係の改善を図ろうとする姿勢は隠さなかった。このことは、米国から見れば引き続き不安要素であろう。
北朝鮮は今月に入り、大陸間弾道ミサイルのエンジン燃焼とみられる「重大な実験」を相次いで実施したほか、朝鮮労働党中央軍事委員会拡大会議で「全般的武力」強化のための「対策」を決定している。米国との非核化交渉の「期限」とする年末が迫る中、北朝鮮が再び強硬な態度に転換すれば、韓国の安全保障環境は平昌オリンピック以前に逆戻りすることになる。韓国としては何としても避けたいシナリオだ。
文氏は習氏との会談で、米朝対話の中断について、「緊張が高まっている最近の状況は、両国(中韓)にはもちろん、北朝鮮にとっても決して得にならない。(中略)せっかくの機会が結実するように緊密に協力していきたい」と米朝対話の継続に期待を示した。習氏も「中韓両国は朝鮮半島の平和安定を堅持し、対話を通じた解決を主張している」と応じた。中韓としては、平昌オリンピック以降に繰り広げられた北朝鮮との融和を再現させたい点では一致していると見るべきだろう。
米中覇権争いの視点からすれば、中国が米国陣営から韓国を「拉致」したいのは当然だ。一方の韓国も、中国・北朝鮮に接近しようとする文氏の姿勢はいささかも変わらないことが確認された。
「韓中は悠久の交流の歴史を持つ運命共同体」
最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の在韓米軍への配備問題をきっかけに、中韓関係は冷え込んだ。だが両国首脳は、その本格的な改善も内々に話し合ったようだ。中国側の発表(「暴露」というべきか)によれば、習氏は「中韓は緊密に協力する友人でありパートナーだ」と持ち上げ、関係強化を訴えた。
これに対し文氏は、香港問題やウイグル族への抑圧は「中国の内政だ」と、習政権の立場に配慮する異例の発言をした。そして「韓中は悠久の交流の歴史を持つ運命共同体」と述べ、「韓中関係の新時代」の構築を呼び掛けた。韓国大統領府によると、文氏は習氏に早期の訪韓を要請し、習氏は「前向きに検討する」と答えたという。
中国には、韓国を取り込み日米韓の連携にくさびを打ち込みたい、との思惑があるのは当然だろう。中国は徴用工問題、対韓輸出管理問題、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)問題などで、引き続き韓国に対して水面下の工作を行うものと見られる。