11月4日、タイで開かれたASEAN(東南アジア諸国連合)関連の首脳会議で、約1年ぶりに11分間の“対話”を行った安倍晋三首相と文在寅大統領。この日の面談は、文大統領が控え室で安倍首相に突然、「ちょっと座って話しましょう」と声をかけたことで始まった。両首脳は空いていたソファで言葉を交わしたが、韓国側は今回、日本側への事前の根回しを一切していなかったという。

韓国の文在寅大統領 ©AFLO

 面談について、韓国政府は「非常に友好的だった。懸案は対話を通じて解決すべきだという原則を再確認した」と説明したのに対し、日本政府は「2国間の問題(徴用工問題)に関する、日本の原則的立場をしっかりと伝達した」と発表。双方の温度差が改めて浮き彫りになった形だ。

 なぜ日韓関係はここまで悪化したのか。安倍首相を最も知る記者と言われる、岩田明子NHK解説委員が「文藝春秋」12月号に特別レポートを寄せた。

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ニューヨークでの日韓首脳会談が“ターニングポイント”だった

 岩田氏が「ターニングポイントの一つだった」と指摘するのは、昨年9月25日、国連総会に合わせて開かれたニューヨークでの日韓首脳会談だ。

岩田明子NHK解説委員 ©文藝春秋

 徴用工問題を巡って、文在寅大統領はそれまで、安倍首相に「大法院(韓国最高裁)は合理的な判断を示す」と言い続けていた。ところが、この年の8月に入り、朴槿恵政権が大法院判決を故意に遅らせたとして、検察が当時の最高裁長官らを捜査対象(2019年1月に逮捕)にするなど雲行きが怪しくなり始める。この時期、南北首脳会談(2018年4月)、さらには米朝首脳会談(2018年6月)の盛り上がりなどもあり、文政権の支持率は一時的に上昇。朴政権が積み重ねた弊害を糺すと謳った「積弊清算」を加速させており、安倍首相自身も不穏な空気を感じ取っていたという。