11月7日、総合月刊誌「文藝春秋」が、同誌初の試みとなるデジタル定期購読サービス「文藝春秋digital<シェアしたくなる教養メディア>」を開始したことを発表した。

 

 今回のサービスにおける一番の特徴は、メディアプラットフォーム「note」を利用したこと。ウェブサイトの自社開発は、これまでメディア業界では“常識”とされてきた。そのため、今回の取り組みに対し、「ウェブの自社開発を捨てた」という指摘もある。しかし、それでも月刊「文藝春秋」は、外部プラットフォームを利用してサービスを開始することに踏み切った。その背景には何があったのだろうか。

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アクティブユーザーが2000万人を超える「note」

「文藝春秋」は、1923年創刊で、今年96年目を迎える老舗雑誌である。新人作家の登竜門ともされる小説賞「芥川賞」受賞作の全文掲載媒体として有名だ。また、これまでに「田中角栄研究――その金脈と人脈」(立花隆、1974年)、「昭和天皇の独白8時間 太平洋戦争の全貌を語る」(1990年)などの記事で世間の注目を集めてきた。

 一方の「note」は、2014年にサービスを開始したピースオブケイク社が運営するオンライン上のサービス。登録者は誰でも“クリエイター”として自由に文章や音声を投稿でき、それに値付けをして有料販売することも可能だ。月間アクティブユーザーは、2019年9月で2000万人を超えた。

 

 今回、「文藝春秋」は、「note」の法人向けサービス「note pro」を利用して、デジタル定期購読サービスをスタートした。なぜ、内部開発することを止めて、新興ベンチャー企業のプラットフォームに乗ることに決めたのか。

場所を“借りて”すぐに始めたかった

「このプロジェクトは、“コンテンツに有料課金すること”ありきで始まりました。しかし、現在、文藝春秋社には有料課金できるプラットフォームがない。一から有料課金モデルのサイトを構築していたら、億単位の開発費と年単位の時間がかかってしまう。雑誌単体のプロジェクトとしては到底不可能。さらに社の開発と完成をまっているのでは遅いと判断したのです」

 こう語るのは、「文藝春秋digital」プロジェクトマネージャーの村井弦(31)だ。

「文藝春秋digital」プロジェクトマネージャー・村井弦

「『とにかく、まずは一刻も早く始めてみることが大事だ』と思いました。確かに、社で有料課金モデルのサイトを立ち上げて、読者データを収集するというのが一般的な考え方でしょう。しかし、それの完成を待っていては、いつスタートできるか分からない。それに加えて、『文藝春秋』のコンテンツは、ウェブ上でどう読まれ、どうウケるかも分からない。だったら、とりあえずはイニシャルコストが低く、コンテンツをウェブ上ですぐにでも展開できる場所を“借りて”スタートするのがいいと思ったのです」(同前)

 では、どのようにして「note」を利用するに至ったのか。