「企業文化の違いによる摩擦」はなかったのか?
文藝春秋サイドも、ピースオブケイクとの打ち合わせを重ねるごとに、加藤をはじめ「note」の運営メンバーたちの出版文化、活字文化への愛情の深さを感じるようになったと「文藝春秋digital」の村井は語る。
「最初は、インターネットベンチャー企業の人たちが出版社のことを理解してくれるかな? と不安な気持ちもありましたが、何度か対話を重ねるうちに杞憂だということが分かりました。みんな、僕たちと同じくらい、いやそれ以上に活字への愛がある人たちだった。一生懸命作った活字コンテンツをどうやって多くの人に届けるか。そして、誰もがクリエイター活動を続けていく環境をどうやって作り上げていくか。そのことに誠心誠意向き合っている人たちでした。だから、サイトを完成させるまでの打ち合わせでは息もぴったりで、“企業文化の違いによる摩擦”なんていうものは一切ありませんでした。この相性の良さが、『この場所で挑戦したい』と思った3つ目の理由です」
そして、11月7日に「文藝春秋digital」はオープンした。
デジタルでも分業が必要だ
村井は「コンテンツメーカーとしての紙媒体と、コンテンツを流通させるプラットフォーマーの関係をしっかり考え直すことも必要かもしれない」と気がついたという。
「パソコンやスマホが普及し、あらゆるコンテンツがデジタル世界に出て行くようになり、いつの間にか僕たちコンテンツメーカー側は『自分たちでコンテンツを配信させるシステム・流通させるシステムを作らなければならないんだ』という責任感というか考え方に固執してしまっていたのではないか。noteチームと仕事をしていて、そんな気がしました。紙の雑誌や本を作る時、僕たち出版社の人間は、流通網や物流網を作ったりすることを考えてこなかったはず。なのに、デジタルではそちらに多くのエネルギーを費やしている。だから疲弊するコンテンツメーカーが増えているのではないでしょうか。僕たちがコンテンツに集中できるような環境を提供してくれるプラットフォーマーがいれば、多くのコンテンツメーカーは助かると思うんです」
加藤もこう言う。
「出版社が本を売る時って、印刷会社がいて、製本会社がいて、取次さんがいて、書店さんがいる。コンテンツが人々に届くまでの仕事も、分業してやっているじゃないですか。ぼくはデジタルでもまったく同じことだと思っていて。コンテンツメーカーはコンテンツを作ることに集中してほしい。読者に届ける仕組みやシステムのことは、私たちのようなプラットフォーマーがお手伝いをすればいいのです。デジタルでも、そんな“いい関係”を作る時代がすでに来ている。僕はそう信じています」
はたして老舗雑誌と新興プラットフォーマーのタッグは、コンテンツ配信の新たな潮流を作ることが出来るのか。新たな挑戦が始まった――。