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 じつは、プロジェクトを始めるに当たり、まず村井が相談したのは、日本を代表するUI/UXデザイナーの深津貴之だった。「文藝春秋」デジタル化計画を聞いた深津は、自身がCXO(Chief Experience Officer)を務める「note」でやったらどうか、と提案した。

「深津さんからは重要な示唆を受けました。(1)自社開発はコストがかかること。(2)どんなコンテンツがウケるかも分からないのに莫大な投資を最初にすると後々ピボット(方向転換)がしにくくなること。大きく言えば、その2つです。極論を言えば『やめたい時にいつでもやめられる状況にしておくほうがいい』というわけです。やっぱりそうか、と思いました。この時点で、自社開発することは一旦なしにする方向になりました」(同前)

 こうして「文藝春秋」は「note」で始める方向に舵を切った。

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©文藝春秋

ピースオブケイク社長の“文藝春秋への想い”

 一方の「note」側は、こうした「文藝春秋」の動きをどう見ていたのか。

 じつは、意外なことに「note」というプラットフォームは、「文藝春秋」という媒体を参考に作られたという。

 2014年4月7日、「note」というサービスを開始したまさに当日、ピースオブケイク社長の加藤貞顕(46)は自身の「note」に次のように書いている

〈その昔、菊池寛というクリエイターが、クリエイターによるクリエイターのためのメディアがほしいということで「文藝春秋」という雑誌を立ち上げました。そして、たくさんのクリエイターが集い、作品を発表しました。〉

ピースオブケイク社長・加藤貞顕氏

 加藤は言う。

「この会社(ピースオブケイク)をつくったのは、インターネットという新しい才能が集う場所に、クリエイターが継続して活躍できる場所をつくる必要があると思ったからです。会社の設立時に『どうやったらそんなことができるだろうか?』と考えた時、まっさきに頭に浮かんだのは菊池寛のことでした。100年前に似たようなことをしたひとがいる、と。cakesやnoteをつくって運営していく際には、文藝春秋の歩みをすごく参考にしています。だから、今回のお話があったときは嬉しかった。『一番来てほしかった人が来てくれた』と」