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凪のお暇、わた定、朝顔……なぜ“現代女性が自分らしく生きようとする”ドラマが人気だったのか

キーワードは「王道・安心」――2019年ドラマ総決算

2019/12/30
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現代女性が自分らしい生き方を模索した“3つのドラマ”

 8位『凪のお暇』(主演・黒木華)、11位『監察医 朝顔』(主演・上野樹里)、12位『わたし、定時で帰ります。』(主演・吉高由里子)は現代女性の共感を得るドラマ。かつては女性が主役のドラマというと恋愛ものが多く、『監察医 朝顔』の“フジテレビ月9”は恋愛ドラマの草分け的存在枠だったが、恋愛ドラマ離れが起こり、もっと切実な、自分らしい生き方を模索するドラマが好まれるようになった。

『凪のお暇』は、いまをときめく人気俳優・高橋一生と中村倫也が演じるふたりの男性の間で揺れるヒロインを描きつつも、最終的に彼女が選択するのは恋ではない。『監察医 朝顔』はヒロインが結婚するも、そこが物語の主ではなく、夫は主人公が抱える内面の問題に迫っていくときの伴走者だ。

左から上野樹里(監察医 朝顔)、黒木華(凪のお暇)、吉高由里子(わたし、定時で帰ります。) ©文藝春秋

『わたし、定時で帰ります。』は働き方改革時代にぴったりで、そのほか、今回、惜しくも上位に選ばれていないが、お金の問題を描く『これは経費で落ちません!』(主演・多部未華子)や建設会社が舞台の『同期のサクラ』(主演・高畑充希)、『同期~』と同じく遊川和彦が脚本を書いた主人公が会社の同僚の悩みを占う『ハケン占い師アタル』(主演・杉咲花)、北海道ローカルのテレビ局もの『チャンネルはそのまま!』(主演・芳根京子)などは会社に属しながら、組織のルールに押しつぶされず、どう自己実現するかが描かれる。それも、しんど過ぎるリアリティーを避けた、穏やかなものが好まれる傾向だ。

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 ほかに、特撮オタクの女性社員の情熱を描いた『トクサツガガガ』(主演・小芝風花)や、地下アイドルにハマっていく女性の変化を描く『だから私は推しました』(主演・桜井ユキ)、ゲイと腐女子の青春もの『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(主演・金子大地、藤野涼子)など、息苦しい日常をいかに風通しよく、どれだけ自分らしく生きられるか描いたドラマが増加している。

時代を表す「堅実ドラマの多さ」

 アンケート9位の『スカーレット』(主演・戸田恵梨香)も朝ドラによくある冠婚葬祭のイベント描写よりも、身近な人とのなにげないやりとりを大事にしている。アンケートの上位には入っていないが、『俺の話は長い』(主演・生田斗真)は長らくニート生活を送っている主人公が家族とコミュニケーションをとりながら自分探しをする日常生活を、サザエさん方式という1本で2話の短いエピソードで描き、気楽に見られるスタイルと気の利いた会話に注目が集まった。

 恋やイベントに盛り上がることなく、地に足つけて働くこと、時には休んでいいことを提案する堅実なドラマが増えてきているのは、「大企業のボーナスは増加し富裕層ばかりがいい思いをして、一般庶民は増税に喘ぎ、先行きを不安視する」そんな時代の空気があるからだろうか。数少ない恋愛もの『初めて恋をした日に読む話』(主演・深田恭子)は、横浜流星という今年最もブレイクしたイケメンを生み出した(『あなたの番です』後半戦でも大活躍)が、これもまた、大学受験に挑む少年を女性教師が見守るという堅実な物語であったことも事実だ。

今年大ブレイクの横浜流星 ©文藝春秋