「箱根駅伝観戦」にどう影響する?
秋の繁忙期には神奈川県のバス協会を通じて県内のバス事業者に協力を依頼した。結果、箱根登山鉄道の系列バス会社だけでなくさまざまな事業者が箱根に集まったという。これによって11月の観光シーズンはどうにか乗り切ったが、まもなく箱根駅伝がやってくる。
駅伝ではとうぜんコースにあたる国道1号は規制がかかるため、代行バスなどは運行することができない。通常ならば湯本で観戦した後に急いで電車で移動して小涌谷踏切で選手を待ち受ける、などという観戦スタイルもあったが、電車の動いていない今年はもちろん不可能だ。小涌谷踏切などの沿線で観戦するためには、規制が入るより前に行って待機するほかないのだ。
ちなみに、駅伝のランナーたちが通過する小涌谷踏切では電車の安全運行のために特別な体制をとっているが、今年は「その必要性はなくなってしまった」(菅原さん)とか。電車が走っていないのだから、それも当然である。
箱根登山鉄道の廃線「露ほどもない」
このように、台風19号が箱根登山鉄道と箱根の町に残した爪痕はあまりに大きい。だからさぞかし意気消沈かと思いきや、そんなことはなさそうだ。ネットなどでは箱根登山鉄道の廃線という噂も囁かれたが、「そんなことは最初から露ほども思っていない」と菅原さん。
「強羅まで鉄道が通じて今年で100年なんです。100年前は今のように重機もない中で山の中に鉄道を敷いた。開通後も関東大震災やアイオン台風で大きな被害を受けましたが、先人たちはくじけずに復旧してきた。だから我々がやらないわけにはいかない。今は駅員がバス代行の関係で慣れない案内に奮闘しており、地元の方や観光のお客さんから『頑張ってね』とよくお声がけいただきます。1日でも早く、運転を再開できるよう頑張って行きたいですね」(菅原さん)
不幸中の幸いか、駅舎や車両にはほぼ被害はなかったという箱根登山鉄道。激励の手紙なども多く届いており、寄付金を寄せてくれた人もいるそうだ。
「電車は止まっていますが、それ以外は旅館もロープウェイも芦ノ湖の海賊船も通常通り。だからぜひ箱根に来ていただきたいですね。バス代行ではご不便をおかけするかもしれませんが、バスの車内からも被害を受けた場所を見ることができます。そこで現状を知っていただき、そして復旧したらまた電車に乗りに来ようと、こう思っていただければ」(菅原さん)
ふつうの電車と少し違う“登山電車”。みどころが多い箱根観光においても、箱根登山鉄道に乗ることはそれ自体が観光目的のひとつになるほどの魅力を持っている。箱根登山鉄道は、いわば箱根の象徴のひとつだ。それは今回の台風19号による運休でも変わらない。運転再開見込みは2020年秋頃である。
写真=鼠入昌史