日本人は目が隠れるのを嫌う?
ではなぜ、こうもメガネが避けられてしまうのか。ひとつには日本人が目でのコミュニケーションを重視していることが挙げられると思われる。
中央大学文学部教授であり、心理学、顔・身体学の専門家である山口真美氏の著書「自分の顔が好きですか?」にはこんな記述がある。
〈欧米と比べると、日本人の表情は大きな動きが少ないのが特徴なのです。大きく口を開けて笑うよりも、にっこりと笑う目で、感情を伝え合う傾向があるのです。
それに従うように、日本人が表情を見るときの視線の行く先は、目に集中します。それはまるで、目で示された小さな変化を一生懸命検出しようとしているように思えます〉(山口真美『自分の顔が好きですか? 「顔」の心理学』岩波ジュニア新書 2016 P.98)
接客業など、とくにイメージを重視する職業においてメガネを避けがちなのは、こうした理由と無関係ではなさそうだ。
また、働く女性に限らず、「女性がメガネを掛けると三文安くなる」「メガネを掛けていると結婚できなくなる」と当たり前のように言われていた時代もあったという。
ある眼鏡店経営者によると、「女性が近視だと、子どもにそれが遺伝すると考えていた人も少なくなかった」というから、近視への偏見ともとれるかもしれない。近視にはある程度遺伝的要素があったとしても、“母親の近視”だけを遺伝の要因とするのはナンセンスだ。ただ、こうした言説がまかり通っていたのならば、私の両親の言動は、本気で娘の将来のことを考えてのことだったのかもしれない。
コンタクトレンズの使用にトラブルはつきもの
しかし、大事なことを忘れてはいないだろうか。そもそも、メガネはイメージだけで語るべきものではない。れっきとした医療機器である。コンタクトという選択肢もあるにはあるが、体質や疾患などによりコンタクトの装用ができないという人も少なくない。
「パイロットのように“乗客の安全のため”などの理由がない限り、メガネの着用を禁止するのは眼科的に正しくない対応と思われます」
そう話すのは、東京・江戸川区にある二本松眼科病院の平松類医師だ。
「結膜炎やドライアイといった症状がある人はもちろん、そうでなくてもコンタクトレンズを使っていれば少なからずトラブルはあるものです。そのときも無理にコンタクトをすれば、感染症のリスクもあります。また、装用時間を守らず長時間コンタクトを着用すると角膜が傷つき、そこから感染につながる恐れも。角膜潰瘍という病気の原因となり、ひどくなれば入院や手術を必要とする場合もあります」
また、「近視の人であれ、遠くが見えている人であれ、45歳を超えてくると誰でも老眼になり、必ずメガネのお世話になるのが現実です」とも。近視や遠視、老眼の人にとって、メガネは必要不可欠な道具なのである。