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和牛に突然説教……“M-1の大天使”上沼恵美子はなぜ狂いつづけるのか

和牛に突然説教……“M-1の大天使”上沼恵美子はなぜ狂いつづけるのか

「更年期障害も乗り越えまして」からの…

2019/12/29
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「緊張感も何もない、ぞんざいなものを感じました」

 何かを察した司会の今田耕司がフォローを入れようとするより一瞬早く「このステージは僕のもの、リサイタル、何のコンテストでも緊張感も何にもない、そういうぞんざいなものを感じました」。そしてここであらためてからし蓮根に向き直り「でも私からし蓮根には初々しいものを感じ、ほんと笑っちゃったし、この必死さ、てっぺんを取ろうという、チャンピオンを取ろうというこの必死さ! この気持ちがぐっと伝わってきて、私は大ファンよ!!」。半ば放心状態のからし蓮根、ハッとなって慌ててガッツポーズ。こんなせつな面白いガッツポーズ見たことない。「がんばれ!! がんばってね!!」さらに絶叫をやめない恵美子。ようやく隙間を見つけてねじ込んだ今田耕司の「若い子たちがチャンピオンを目指して取りに来てる感じが」という合いの手をも「それがいいの、それが、M-1じゃないの!?」「それがなんかわからないけども、去年もその前もチャンピオンに決勝まで残りくさらんかった、それが腹たつっていうんですわ」すぐさま和牛批判に揺り戻す。そして「それに比べてこの子たちは!!」ここまで言って力尽きたかのようにパッタリと机に突っ伏したのでした。エミコ・ジ・エンド。

和牛 ©M-1グランプリ事務局
からし蓮根 ©M-1グランプリ事務局

 わざとらしい標準語とまくし立てる関西弁。演技と本音。これが交互にあらわれて聞いている方は、からし蓮根じゃなくてもパニックです。狂っている。なぜあなたは狂うのですか上沼恵美子。海原千里万里が天才漫才師だったことに疑う余地はなく、今現在関西バラエティ界での確固たる地位もある。スカしながら採点して、コメントでひとっつも面白くないがボソボソっとそれっぽいこと言ってればいいのに。出場者やそのファンに嫌われないように、指摘は穏やかにあとちょっといい話とかすればいいのに。すぐさまツイッターで「愛がある」「実はいいひと」みたいに拡散されるのに。志らくという噺家さんがおりましてね。

「いい人」も「愛がある」も求めていない恵美子の“正解”

 全く求めてないのでしょう。「いい人」も「愛がある」も、そして「安定」も。私は思い出していました。今年の闇営業問題のときの上沼恵美子を。自身の番組『上沼・高田のクギズケ!』(2019年7月21日OA)で、ゲストは奇しくも宮迫と縁のある月亭方正とFUJIWARA。憔悴しきった表情で宮迫の復帰を訴える3人に上沼恵美子は言い放つのでした。

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「スポーツマンみたいやな、芸人ってそんなに熱いん?」

「誰も頭抜けようとしない。スクラム組んで『おもろないようにしような』ってやってる」

「だから今の芸人はおもろない」

 これが上沼恵美子の「正解」なのだと思いました。芸能界は椅子取りゲーム。宮迫がいなくなって席が一つ空いたことを喜ばないでどうする? 出し抜けよ、ここはスポーツじゃない。芸人のスポーツマン化で、結局一番被害を被るのは、芸人同士の絆に縛られ身動き取れなくなる芸人自身であり、その絆に自ら加担し「ただ単純に面白くて笑う」という最大の娯楽を手放すお客さんであると。