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今村大失言にみる、政治家「寄り添う」発言のテンプレ化

私たちはいつまで失言に寄り添わなければならないのか

2017/04/29

genre : ニュース, 政治

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吉野正芳 復興相
「役所は『寄り添って』という言葉を使う。耳ざわりのいい言葉だが、本当に被災地に寄り添っていけるのは私だという自負をも持っている」

日刊スポーツ 4月26日

後任の吉野正芳復興大臣 ©時事通信社

 今村雅弘氏の後任に就任したのは、福島県いわき市と双葉郡を選挙区とする吉野正芳氏だ。就任会見では自宅と選挙事務所が津波の被害を受けたことを明かし、「被災者の気持ちはどなたよりも理解していると思う」と強調。今村氏の発言については「昨日の発言は許すことができない。東北の被災地にとっては、許すことのできない発言だ」と強い口調で批判した。

 ここでポイントになるのが「寄り添う」という言葉だ。吉野復興相は記者会見で、誰も彼もが「(被災者に)寄り添って」という言葉を使うことに疑問を呈してみせた。現に今村氏も昨年8月の就任記者会見では4回も「寄り添い」と繰り返していた。言うだけなら今村氏にだってできる。

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「“寄り添う”が単なる形容詞になっている」

 安倍首相も負けてはいない。26日の今村復興相辞任に関する記者会見では「被災地の皆様の心に寄り添いながら復興に全力を挙げる、これは揺るぎない内閣の基本方針であります」と語っている。ただし、今村氏が「自己責任」と発言した折にも、今村氏を支持しつつ「被災者に寄り添い、復興に全力を挙げる安倍内閣の方針に変わりはない」と語っていた(時事ドットコムニュース 4月6日)。良く言えばブレてない、悪く言えばテンプレ。そして、今村氏がどう「寄り添って」いたのかには関心がなかったようだ。

「本当に被災地に寄り添っていけるのは私だけ」と寄り添いレースで先行しようとする吉野復興相だが、公明党の漆原良夫中央幹事会会長は27日の記者会見で「『被災者に寄り添う』という言葉を使うが、言葉だけが上滑りしている。単なる“形容詞”になっている」と盛大に釘を刺してみせた。吉野復興相が被災者に本当に寄り添っていけるかどうかは行動で示す必要がある。「実績らしい実績が見当たらない」「人をまとめるリーダーシップがない」「政治家には不向きのタイプ」(いずれも日刊ゲンダイ 4月27日)とボロクソに言われているが、ここはぜひとも頑張ってもらいたい。

 ちなみに安倍官邸に近いことで知られる時事通信社の田崎史郎氏曰く「政治家は寄り添っている“ふり”はしなきゃいけないんですよ」(『ひるおび!』 4月26日)。マジか。

二階俊博 自民党・幹事長
「一行でも悪いところがあれば『けしからん、首を取れ』と。なんちゅうことか。それ(記者)のほうの首を取ってやったほうがいいくらい。そんな人はハナから排除して入れないようにしなきゃだめだ」

産経ニュース 4月27日

マスコミ批判を展開した二階幹事長 ©杉山秀樹/文藝春秋

 今村氏の失言は派閥の領袖、二階氏にも二次被害をもたらしたようだ。失言の翌日、自身の講演会でマスコミ批判を展開した二階氏だが、それ自体が失言気味。

 これには与党寄りの論調が目立つ産経新聞も「マスコミに恨み節」と突き放した記事をドロップ。さらに普段は激しく敵対する民進党・蓮舫代表の「巨大与党の幹事長ならそうした言葉でメディアが忖度するとでも思っているとしたら、それは大きな間違いだ」という批判も詳しく掲載してみせた(産経ニュース 4月27日)。

 ワイドショーでも小倉智昭や坂上忍にケチョンケチョンに言われてしまった二階氏。「忖度」の神通力も通じなくなりつつあるのかもしれない。