文春オンライン

今村大失言にみる、政治家「寄り添う」発言のテンプレ化

私たちはいつまで失言に寄り添わなければならないのか

2017/04/29

genre : ニュース, 政治

note

盛山正仁 法務副大臣
「何でもそうだが、対象にならないということにはなりません。性質として対象にならないかもしれませんが、ボリュームとしては、大変限られたものになると、わたしたちは考えているということです」

FNN 4月21日

 今村騒動の陰に隠れてしまった形になったが、共謀罪の構成要件を改めた「テロ等準備罪」に関する国会審議が進んでいる。

 これまでの日本の法律の大前提は「起きた犯罪」を処罰するというものだったが、これに対してテロ等準備罪は「起きる前の犯罪」「まだ起きていない犯罪」「起きそうな犯罪」を処罰できるもの。しかし、線引きが非常に曖昧なままで、市民の活動や生活への監視が強化される懸念が膨らんでいる。

ADVERTISEMENT

 4月21日の衆院法務委員会では、いきなり矛盾が露呈した。これまで安倍首相や金田勝年法相は「一般の方々を捜査するものではない」という発言を繰り返してきた。しかし、盛山法務副大臣は「(一般人が捜査の)対象にならないということはありません」という認識を示したのだ。

 そもそも「一般人」が誰を指すのかが曖昧なままだ。市民団体でも労働組合でも一般人のサークルでも、集まった目的が変われば「テロ等準備罪」に問われる可能性がある。「テロの準備をしなければいいんでしょ?」と思うのは早計だ。「テロを防ぐためなら多少の不自由は仕方ない」と思うのもちょっと違う。なぜなら、次のような発言があるからだ。

古川俊治 自民党・法務部会長
「テロなんて言ってませんよ。この法律だって」

『羽鳥慎一 モーニングショー』 4月20日

古川俊治議員 ©時事通信社

 テロ等準備罪の取りまとめ役を務める自民党・法務部会長の古川議員によると、「テロ等準備罪」というのはあくまで“呼び名”であって、テロを防ぐためだけに作られる法律ではないというのだ。実際、国会に提出された法案を印刷した冊子には「組織的犯罪処罰法改正案」と記されている。こちらが現段階の正式名称と考えていい。報道するメディアによって「共謀罪」「テロ等準備罪」「組織的犯罪処罰法」とまちまちに表現されているから非常にわかりにくい。

 安倍首相は「2020年東京オリンピック、パラリンピックを3年後に控える中において、テロ対策は喫緊の課題であります」と述べて「テロ等準備罪」と結びつけているが、実際には法律の対象はテロ犯罪だけではない。先に政府が挙げた277の犯罪が対象であり、そのうち一つでも計画したら一般人であろうとも「組織的犯罪集団」とみなされる可能性がある。277の対象犯罪には、保安林でのキノコ狩りも含まれている。

 矛盾だけでなく、とにかく曖昧な「テロ等準備罪」なのだが、政府はゴールデンウィーク明けにも衆院通過を目指している。議論の経過にはさらなる注意が必要だ。我々と無縁の話ではけっしてない。

今村大失言にみる、政治家「寄り添う」発言のテンプレ化

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー