ベテランの意識を変えた浅村の主将就任

 開幕前の評論家による順位予想ではほとんどがBクラスだった埼玉西武ライオンズ。スタートして1ヶ月足らずで大方の予想に反した戦いぶりを見せています。好調の要因は辻発彦監督による意識改革が浸透していること、先発・中継ぎ投手陣の安定、主軸の好調な打撃、堅実な守備などが挙げられます。それと、辻監督が指名した浅村栄斗新主将の存在も大きいのです。

 主将といえば元気者で先頭に立って大きな声を出してナインを引っ張っていくイメージです。ところが、浅村は寡黙でシャイなタイプなのでひと昔前なら不適格だったでしょう。昨秋のキャンプで「暫定主将」として浅村を指名した辻監督に、あらためてその辺りを聞いてみました。

「なぜ暫定?」には「いや、あの時からシーズンに入ってからも、と考えていました」。「なぜ浅村を指名?」と確かめますと「やっぱり内野手のほうがまとめやすいでしょう。それと、若手の主将を後押ししようとベテランの意識も変わりますから」とのことでした。キャンプの時点から前主将の栗山巧や中村剛也のベテラン組の「浅村をバックアップしよう」という気持ちが感じ取れました。

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 スターティングメンバーを見渡しても浅村より年上が圧倒的に多く、気遣いもできているのではないでしょうか。この見えない力が功を奏していると思います。野球は団体競技ですので精神的な団結が重要なポイントです。自分が、自分が、の意識が強いと良い結果は生まれません。

本拠地メットライフドームで練習中の浅村栄斗 ©中川充四郎

憧れの中島から引き継がれた背番号「3」

 その浅村。開幕戦で4安打1打点と元気なところを見せ、ここまで(4月23日現在)打率.417、16打点、2本塁打で30安打はリーグトップです。4月19日の楽天戦では、延長12回、一死一塁の場面でルーキーの森原康平からサヨナラ二塁打。この直前、カウント3-1から超マン振り(空振り)で相手を威嚇した形になりました。この思い切りの良いスイングが売りなのです。評論家のデーブ大久保氏(前楽天監督)は「これだけ振れる打者はセ・リーグにはいません」と明言。

 浅村は入団直後、先輩の中島裕之(現宏之・オリックス)に憧れ、キャンプ前の自主トレでは「中島組」とプリントされたTシャツを着こみ、練習を共にしていました。その中島が2013年にFA海外移籍して背番号「3」が空き番号に。周囲はその番号の後継者は浅村、と誰もが思っていました。

 そして、その年は主に一塁を守り、打席に専念できたのか打率.317、27本塁打、110打点の素晴らしい数字を残し、即背番号「3」への変更かと思われましたが球団の判断は「時期尚早」で見送り。本人は、かなりガッカリしていました。15年のオフ、その話題が持ち上がりましたが、本人が固辞し球団との間がちょっとマズイ雰囲気になりかけていたのも事実です。昨オフ、球団と本人の阿吽の呼吸ですんなり「3」に変更となり、新監督に主将の指名を受けたのです。

 大阪桐蔭からドラフト3位で2009年に入団。甲子園大会でも名を売りましたが、スカウトの評価に「送球に難点あり」との見方があり、他球団も含め上位指名が避けられました。入団同期のドラフト1位は日南学園の中崎雄太(昨年退団、広島・中崎翔太の兄)でしたので、ドラフト戦略の難しさを痛感します。

好調をもたらしている“裏の存在”

 そして、もう一つチームの好調の要因と考えられることを亀井猛斗チーフスコアラーが挙げてくれました。今季からベンチ入りしている黒瀬春樹スコアラーの存在です。昨季まではベテランスコアラーがベンチを担当していましたが、コーチ陣や選手への伝達がスムーズではなかったようです。コーチ陣より年長で、選手たちとの世代のギャップがあるとコミュニケーションも円滑にいかないのでしょうか。

 黒瀬スコアラーは2004年に県岐阜商からドラフト2位で入団。憧れだった松井稼頭央(現楽天)とは海外FAで入れ違いになりました。どれだけ憧れていたのか、ショップで松井のサインを購入したという話をドラフト直後の取材で聞きました。そこで私が松井から直筆のサインを「黒瀬君、頑張れ!」という言葉入りでもらい、入団会見の時に渡して本人が感激しまくっていたのを記憶しています。

入団会見時、松井稼頭央のサインを手にニッコリの黒瀬春樹 ©中川充四郎

 話は横道にそれてしまいましたが、年齢的にも今のベテラン、中心選手と一緒にチームメートとして戦い、コーチ陣も遠慮なくモノが言えるので意見交換が活発に行えているようです。答えが出るのはまだ先ですが目に見えない、形に表れないことがチームの活力になっているのでしょう。浅村新主将が「表の存在」ならば、黒瀬スコアラーが「裏の存在」でチームの勢いの原動力となっているのです。

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