元気がないときは、元気なときの自分に助けてもらう
星野 トミヤマさんは辛いとき、どうしてますか?
トミヤマ 私はとりあえず寝ますね。パンケーキ食べて寝る(笑)。
星野 つらい時期は、テレビドラマの“暗い回”みたいなもの。このあとどう展開するんだろうくらいに思っておく方がいいですね。あとは、元気なうちに、自分なりのストレスの対処法を書き出しておくのがオススメです。僕はしんどくなると、幡ヶ谷にある好きな居酒屋で、ぬたを食べるようにします。
トミヤマ えらく具体的ですね(笑)。
星野 これは、できるだけ具体的な方がいいんです。弱っているときは判断ができないので、「居酒屋に行く」だけだと迷ってさらにストレスが溜まってしまいます。例えばトミヤマさんだったら、「パンケーキを食べる」ではなく「どこのお店の、どのパンケーキを食べる」くらい具体的にしておくといいですよ。しんどくて判断できない自分のことを、元気なときに自分が書いたトリセツ(取扱説明書)が助けてくれるように準備しておくんです。これは「ストレスコーピング」という方法論。考えられるうちにできるだけ多く書き出しておきます。
トミヤマ つらいときとつらくないときの2つの自分が、協力して乗り越えていくというのは、とてもいい考え方ですね。
星野 人生ってハイライトの時間は長くない。ハイライトにいたるまでの時間も、情熱的じゃなく、平熱的に過ぎていきます。そんな思いを込めて、『情熱大陸』ならぬ『平熱大陸』って曲を作っちゃったくらいなんですが(笑)。トミヤマさんのように、オールマイティにキャリアを謳歌しているように見えても、平熱的な部分があるんだと思えるのは、落ち込まないひとつの要素ですよね。今日は、お話しできて「トミヤマさんも一緒だ!」と安心しました。
トミヤマ いやいや、こちらこそ。私も、「人生のハイライトは長くない」を合言葉に前向きに生きていきます。
構成:田中瑠子 撮影:榎本麻美/文藝春秋
星野概念(ほしの・がいねん) 精神科医/音楽家
WEB『Yahoo! ライフマガジン』にて「星野概念のめし場の処方箋」、『CREA』で「精神科医はBARにいる」、『BRUTUS』で「本の診察室」を連載中。
トミヤマユキコ ライター/早稲田大学文学学術院助教
ライターとして『文學界』や『FRaU』などで執筆。早稲田大学で少女小説、少女漫画を中心とするサブカルチャー関連講義を行う。パンケーキの食べ歩き専門家でもある。