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5月の憂うつをやり過ごすいくつかの方法[後編]トミヤマユキコ×星野概念

大学助教と精神科医による「5月病」の処方箋

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 新生活に「適応せねばならない」のプレッシャーが「5月病」を引き起こす――。前回の対談で5月病になりやすい人とその対処法について語った、トミヤマユキコさんと星野概念さん。パラレルキャリアで活躍する2人にはともに、居場所を探して葛藤してきた「人生の5月病期」があったといいます。何が自分を解放してくれたのか、突破口の見つけ方を聞きました。(前編より続く)

複数のツイッターアカウントがもたらす葛藤

トミヤマ 新しい生活が始まる新年度に限らず、無理をして「環境に適応せねばならない」場面は、日常的にしばしば訪れます。

星野 そうですね。例えばそのひとつが、立食パーティ。笑顔を振りまき、初対面の人と饒舌に会話を弾ませ、いかにも楽しそうに振る舞うことが求められる場です。少しでも1人ぼっちになってしまうと「ダメ人間」の烙印を押される気がして、自意識との戦いを強いられます(笑)。でも、立食パーティに“行かなければ”、避けることはできます。一方で今の世の中は、「環境に適応せねばならない」場面が、否が応でも降りかかってくるように思うんです。例えばツイッターなどSNSでは、やったこと、考えていることを全部発表しなくちゃいけないプレッシャーがあります。自分の立ち位置を常に明確にして、よりよく見せようとアピールしなくてはならない。自分を取り繕う「立食パーティ」的なものが多すぎてしまって、テキトウでいいや、が許されない社会になっていると思います。

トミヤマ 自分のキャラクターを確立するために、誰にいわれたわけではないのに、自分が一番無理をするというのはあるかもしれないですね。

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©榎本麻美/文藝春秋

星野 トミヤマさんは大学教員として、コミュニケーション感度の高い若者に常に触れ続けていますよね。イマドキだなと感じる変化はありますか。

トミヤマ そうですね。驚いたのは、ツイッターのアカウントを複数持っている子が多いということ。中高時代の友達用、大学のクラスメート用、バイト先のメンバー用など、コミュニティごとに自己を複数に割ってコミュニケーションを取っているんです。5つのアカウントを持っている教え子もいます。

星野 知らなかった! それは衝撃的ですね。

トミヤマ なんて大変なオペレーションをしているんだろうと思いますよね。でも話を聞いていると、たとえばAとBのコミュニティを掛け持ちしている学生にとっては「Aの集団で、Bの趣味の話をして浮いたら傷つく」ということらしいんです。「Bの話は、Bの集団で話した方が楽しいし気兼ねしなくいいからてラク」だといいます。

星野 衝突を避ける自己防衛ですね。

トミヤマ そうそう。トラブル回避の方策として編み出しているのが「自己を割る」ということなのだと理解しています。

星野 精神科医として、「解離性同一性障害」を連想してしまって、なかなかまずいのではないかと思いますね。解離性同一性障害は、かつて多重人格障害と呼ばれていたもので、つらい状況から逃れるために自分のなかに複数の人格を作っていく障害です。親から虐待を受けた子どもに見られるなど、物理的に逃れようがないときに自分を守ろうとする心の働きとして知られています。まあ、そこまで深刻じゃないにしても、その場に適応するためにこのキャラクターでいこう、となると、本来の自分を見失って苦しいんじゃないかと思うんですが……。

トミヤマ そうですよね。もちろん、SNS上のコミュニケーションなので、複数の人格に優先順位付けをしたりして、バランスを取ろうとはしていると思いますけどね。

星野 「星野1」から「星野5」まで5つの自分を作っているうちに、「僕は星野1でありたいのに、2の方が周りにウケてしまったので、2でいなくてはならない」となるかもしれませんよね。すると、前回お話しした「超自我」と「エス」のように、「ねばならない」と「したい」の葛藤が深まっていく。葛藤が深まれば深まるほど、「5月病」的なもの、つまり神経症になっていくんです。

「星野1」から「星野5」の葛藤をジェスチャーで表現する星野さん ©榎本麻美/文藝春秋