“アディダススクール”の青学大がナイキに履きかえるきっかけは?
なかでも一番驚いたのはアディダスがウェアなどをサポートする、いわゆる“アディダススクール”の青山学院大の選手が、全員ヴェイパーフライを履いていたこと。両者はこれまで様々なプロモーションを行なってきて、青学大=アディダスというイメージができあがっていたのですが……。当然、青学大はナイキのサポートを受けていませんから、選手たちは自腹でヴェイパーフライを購入しているはずです。そこまでしても、みんなナイキを履きたがったということでしょう。
青学大の選手たちの間に、気兼ねせず、履きたいシューズを履くという空気が生まれたのは、2019年10月の出雲駅伝で5位に終わり、11月の全日本大学駅伝の最終区間で東海大にひっくり返され優勝を逃し、2位に甘んじた直後からです。
全日本大学駅伝ではアンカーを走るも、トップを東海大の名取燎太選手にゆずり悔しいゴールをした飯田貴之選手。全日本大学駅伝の最長区間19.7kmを走った彼は、翌週11月10日に行われた世田谷246ハーフマラソンに自ら志願して出走しました。全日本ではアディダスだった足元が、このときからヴェイパーフライにチェンジ。飯田は世田谷246ハーフを1時間3分11秒で走り、優勝しました。
飯田はその勢いにのって箱根駅伝本選では5区を走り、往路優勝のゴールテープをきります。思えば、全日本大学駅伝での敗戦が“青学ヴェイパーシフト”のスイッチでした。
そこから選手たちはポイント練習や記録会でも、どんどんヴェイパーフライを履き始め、そして今回の箱根では出場選手全員がヴェイパーを履き、総合優勝を果たすのです。
青学大は「シューズの力で勝った」のか?
ただ、この結果を見て、「シューズの力で勝った」と考えるのは早計です。青学大の選手たちにヴェイパーフライのポテンシャルを十分に生かせるだけの力があった、と捉えるほうが正しい。一時は不振も囁かれた青学大ですが、競技力は落ちていないことが、証明されたと言っていいでしょう。
とはいえ、アディダスの心中は複雑でしょう。青学大が優勝したのは嬉しい。けれども大会中の写真をプロモーションに使おうとしても、ナイキの靴が写っているから使いにくい。相当なジレンマだと思います。
ちなみにテレビには、走り終えた選手を迎える部員たちの足元や、優勝インタビューの時の足元も映っていたのですが、そこでは青学大の選手たちは、アディダスの黒いシューズを履いていました。走るのはナイキだけど、それ以外の場所で、カメラに映る時はきちんとアディダスを履く。大人の対応ですよね。そこまで徹底して使い分けるのが、今の大学駅伝の姿なのです。