「人にやさしく自分に厳しく」by 大御所スター
――その俳優さんの言葉が、ひとつの原点なのですね。ほかに坂上さんの人生の指針になっているような言葉はありますか?
坂上 ずっと引っかかっている言葉がありますよ。子どもの頃、加山雄三さんと親子の役を5年ほどやらせて頂きました。加山さんは僕の宿題を見てくれたり、新車を買ったからってドライブに連れて行ってくれたりしたんですよ。そのドライブのせいで、ドラマの撮影が中断になったりしたんですが(笑)。
それで、共演者の方にサインをもらう習慣はなかったんですけど、5年も一緒にやらせてもらっているし、せっかくだからお願いしてみようかなと思って、色紙を持って行ったんですよ。そうしたら、サインの横に「人にやさしく自分に厳しく」と書いてありました。
――いい言葉ですよね。
坂上 いやいや、そんなこと書かれても実践できないでしょ(笑)。そりゃ、人にやさしくしようと努めているし、自分に厳しくしようとも努めてはいるけれども、自分に甘くしちゃうし、人にやさしくしようとしてもしきれない。大人もできないような言葉を中学生の僕に書くってどんだけオトナゲないんだと。じゃあ、あなたはできているんですか?と聞きたくなりますよ(笑)。
――確かに簡単ではないでしょうね。
坂上 ついつい言葉を目標にしちゃうけど、完遂できないからずっと残るっていう重さもあるわけじゃない。だから僕も、仕事中とか酒を飲んでいるとき、なにやってんだよ!とか言った瞬間にふと、人にやさしく自分に厳しくっていう言葉が頭に浮かぶわけですよ。それで、帰りのタクシーで落ち込む(笑)
善人になりきれないのは僕の性格というか、きっと何かが欠けているんですよね。だからどうしてもその言葉が残ってしまう。いまでも、バイキングで加山さんが80歳になってもコンサートをし続けているという姿をみると、やっぱりその言葉が蘇ってくるんですよね。
――加山さんもそこまで重く受け止められていると知ったら驚くでしょうね。
坂上 僕がお付き合いしてきた役者さんはこだわりの強い人が多くて、えっバラエティ?という意識がどこかに残っている人たちが多いんですよね。でも一度、フジテレビのFNSうたの夏まつりに出させていただいたときに、エンディングで加山さんと久しぶりに会ったら、バラエティに出ている僕を、とても喜んでくれたんですよ。
加山さんは、あの人の生き方そのもので、それこそこの人に頼まれたからお芝居やってみようか、散歩してみようかっていうノリの分け隔てのない人なんですよ。その加山さんに、おもしれーな!といわれたときは、素直に嬉しかったですね。
仕事はケンカ。60歳までは数字を取りに行く。
――坂上さんは以前、60歳で引退したいとおっしゃっていました。その気持ちは変わらない?
坂上 引退というか、ケツを決めないといまを頑張れないんですよ。ヒロミさんと約束しているのは、とりあえず東京オリンピックまでがんばろうって。僕はその次が還暦で。
実際に60歳になったら改めて考えるとは思うんですけど、理想としてはそれまでお付き合いさせていただいたスタッフさんの誰かと細々としたバラエティ番組をやらせていただけるならやり、芝居を作るほうでなんらかの形で参加して、あとは犬です。
――それでは、還暦までは引き続き、ガチンコのギリギリ路線を攻めますか?
坂上 そうですね。基本的に仕事はケンカだと思っているし、拾ってもらった立場なので、MCでもレギュラーで出させていただいている番組でも、自分が関わらせていただいている番組は、微力ながら数字を取りにいきます。
――坂上さんは波乱万丈な人生を送ってきたと思うんですけど、今は楽しいですか?
坂上 どうですかね。僕なんかすぐに叩かれて、潰されて終わりだと思っていたんですよ。他所からきて、言いたい放題言って、ふざけるなって思われておかしくないでしょう。でも、これだけ自分がやりたいようにやらせてもらっているのに、温かく見守ってくれているのは意外でした。まあ、わかんないですよ。来月には干されているかもしれないし、捕まっているかもしれない(笑)。
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坂上忍/1967年生まれ。テレビドラマの子役としてデビュー。芸能プロダクション「アヴァンセ」を総合プロデュースする他、数々のテレビ番組で活躍。「バイキング」(毎週月〜金 11:55-13:45放送 フジテレビ系)ではMCを務めている。
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坂上忍が本気の夜遊びを敢行。ギャンブル、歓楽街など「ディープな」場所でハメを外しまくる。地上波では放送できない密着ドキュメンタリー。
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構成:川内イオ 撮影:榎本麻美/文藝春秋