犬山、出張が最低月に7回ありまして、毎月新幹線に14回は乗るわけですが、読書は専ら新幹線に乗っている間であります。東海道新幹線の時はハイボールでたこむす(天むすのたこ焼きバージョン)をハフハフ食べながら本を読み、東北新幹線の時は乾燥ホヤとビールを味わいながら本を読むという、最高なひとときを毎度過ごしております。

 新幹線といえば以前「水木しげるの自伝を読んでいる美女が隣の席の男にナンパされる」という現場を見たことがあります。美女と水木しげるの組み合わせがサブカル男子の心にグッときたのか、普段ナンパなぞしないであろう大人しそうな男子が「キャラメルどうですか?」とまさかのキャラメル経由のナンパ。しかし、美女は「なんかこのキャラメル湿ってる……」と食べることを拒否するという切ないものでありました……。(緊張して手汗が出たんだね……)

 しかし、新幹線で隣同士になったらそれは長時間一緒にいるというわけで、そんな相手のルックスがドンピシャ、その上に読んでる本も自分の大好きな本、となると「は、話しかけたい」となる気持ちは凄くわかります。私も以前、隣に座ってる男性がニコニコしながら柴犬の写真集を見てたとき、「赤、黒、白、巻尾、さし尾、どんな柴がお好みですか?」と話しかけたい衝動にかられました。

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 ですが、キャラメルの男性も私もここは絶対話しかけるべきではないと思うんですね。本当はただ「見た目が好みで本の趣味が一緒」なだけの相手を、こっちが勝手に美化して、理想化して、それでドキドキしているわけですから。その夢のような時間は話しかけるとぶち壊れる可能性が非常に高いし、勝手に理想化された相手にも迷惑ってなもので(実際キャラメルの男性は撃沈していたし)。

 それよりも「ああ、この人なら私のことをわかってもらえるかもしれない」なんて淡い期待を胸に、ちらりと本を読んでいる横顔を見て、ひと時の強烈な片思いを楽しむのが最高ではありませんか。片思いなんて大人になるにつれとんとできないですものね。「今話しかけたらどうなるのだろう、あっちも私のことを実は気にかけてくれていたらどうしよう……」なんて自分に都合の良い妄想を繰り広げ、ドキドキしながら片思いをむしゃぶりつくすように楽しみきる、これに限ります。

 しかし、話しかけずとも夢のような時間というのは、大概近くの席の足の臭いおじさんが靴を脱ぐことにより強制終了がかかります。どんなロマンチックな妄想も足の臭いには勝てない……妄想力……もっと鍛えよう……。