渋谷系の女王・野宮真貴 2020年で還暦です
ピチカート・ファイヴは2001年に解散しました。でも、「解散」という言葉は当時は使っていないんです。最後のライブも「お葬式」と言ってましたし(笑)。歌手になりたくてデビューしたものの、売れない下積み時代を過ごしていた私にとって、子供の頃に夢見ていた、「歌とおしゃれ」を思いっきりできる環境にあったのがピチカート・ファイヴでの10年間だったと思います。世界進出など、想像を超える広がりもあって、とても充実していたし楽しかった。小西さんから教わったこともたくさんありました。
以降、再びソロとなった私は、川勝正幸さんや菊地成孔さんにプロデュースしてもらったり、さまざまなアーティストとコラボレーションしたりしながら新境地を開拓していきました。歌とファッションをシアトリカルに演出する舞台を作るなど、ある意味、私の40代は試行錯誤の日々だった部分もあったと思う。
でも、50代に入り、デビュー30周年を記念してのセルフカバー集『30』を出したときにわかったんです。いまの自分が歌いたい曲を選んでみたら、ピチカートの曲がいちばん多かった。改めて歌ってみて、小西さんの曲の素敵さを再確認して。ピチカートも含めた「渋谷系」の楽曲たちを歌い継ぐことが大事だし、それは自分のやるべきことなんだと。バート・バカラックやロジャー・ニコルズ、はっぴいえんど……世界には本当にたくさんの名曲がある。それをナツメロではなく、21世紀のスタンダードナンバーとして歌い継いでいくことが、シンガーである私のやるべきことなんだなって。それで、「『渋谷系の女王』こと野宮真貴です」(笑)と、名乗ることを決めたんです。もう、言い切ってしまおうと。
私は来年還暦を迎えます。20年3月で60歳。更年期は乗り越えましたが、その後にくる、様々な体の変化を感じている最中です。それが如実に表れるのが声。ちゃんとケアをしていないと、いままで通りにいかなくなる。声帯のチェックをして、ボイストレーニングもはじめました。声だけじゃなく、美容も含め、体に関することは全部そう。でも、自分の体の声を聞きながらちゃんとメンテナンスしていけば、まだまだいけると思うんです。
これまでは外見の美しさを追及してきたけれど、これからは身体の中身も美しく、そして健康でいなくちゃと思っています。「ヘルスケアがビューティーケアにつながる」ことを自分でも実践したいし、そこで学んだことを同年代や年下の女性たちに伝えていくのも私の役割なのかなって。
ミニスカートがピチカート時代はトレードマークでしたけど、ここのところは封印してたんです。でも還暦を機に、解禁しようと思っているんです。普段でもステージでも。何年か前、雪村いづみさんとお会いしたとき、70代の雪村さんはミニスカートに網タイツ履いて、歌も素晴らしかった。お手本になる先輩がいるのは大事。自分もそうありたいし、そんな私を見て、同世代には「人生はこれから!」と思ってもらいたいし、下の世代には「歳を取るのも悪くない」と思ってもらいたいんです。
これからもまだまだ歌っていきます。「渋谷系」を歌い継ぐことをライフワークとして続けつつ、還暦になっても新しい人と出会いたいし、新しい音楽と出会いたい。そして、いつか、小西さんの新曲を歌いたい。そのためにも、声とビジュアルはいつでもスタンバイできるようにしておかなきゃなって。「歌とおしゃれ」の旅路はまだまだ続くんです、これからも。
野宮真貴
ピチカート・ファイヴ3代目ボーカリスト。ピチカート・ファイヴの名曲を収録した「THE BAND OF 20TH CENTURY: Nippon Columbia Years 1991-2001」が7inch BOXとCDアルバムで発売中。20年3月12、13日にライブ「野宮真貴、還暦に歌う。」を開催。彼女が敬愛する鈴木雅之と横山剣がゲストボーカリストとして登場する。
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=11864&shop=1
text:Izumi Karashima
photographs:Wataru Sato
hair&make-up:Noboru Tomizawa